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何のための待遇格差解消か 最高裁、しっかり頼みますよ!

〇2020年10月13日と15日、最高裁は正社員と非正社員の待遇格差をめぐる裁判で、重要な2つの判決を出しました。13日の第3小法廷の判決は、非正社員が「正社員と同じ仕事をしているのだから、賞与や退職金が出ないのはおかしい」と訴えたのに対し、いずれも法で言う「不合理な格差」とは言えないと判断し、支給を認めませんでした。それに対し、15日の第1小法廷の判決は、契約社員に扶養手当や夏季冬季休暇が与えられないことを「不合理な格差」に当たると判断し、これに背く下級審の判決の修正を求めました。

○2つの判決でより重要なのは、訴えを認めず、時代の趨勢である非正社員の受けている待遇格差の解消に、待ったをかけた13日の判決です。しかし非正社員・非正規の働き手は、いまや日本の雇用人口の40%を占め、その賃金水準は正社員の60%程度といわれます。こんな不公平なことが、まかり通っていいのでしょうか。
 
○私はこの判決の判断は間違っていて、その間違いは物事を些末な理屈から考え、正社員と非正社員の労働の実態から考えていないところにある、と思っています。そしてこのこと、つまり正社員と非正社員の待遇格差の放置は、21世紀になって顕著になってきた日本経済衰退の大きな原因にもなっていると思っています。

○日本では多くの人が、正社員と非正社員の待遇の格差を間近に見て、結果的にそれによって利益を得たり、また立場の変化で非社員になって、不利益を被ったりしているのではないでしょうか。そして一貫して利益を得ているのは、非正社員を雇用している企業です。

○そこでこの問題について統計などに頼らず、わたしの極私的な体験から考えてみましょう。私はいわゆる大企業に正社員として入社しましたが、ここで、同じ取材職(記者)の先輩である契約職員と一緒に仕事をすることになりました。同一労働だったか、ですって。とんでもない、同一労働どころか、先輩だけあって仕事は滅茶滅茶出来て、先輩というより私の師匠でした。記者に向いていたのでしょう、先輩は警察まわりで特ダネを取りまくり、同業他社にとって脅威でした。

○しかし給与や賞与において正社員との格差は大きく、ある日「もう辞める。親と相談して来る」と私に言った先輩の暗い顔は、今も忘れられません。戻ってきて「実情を話したら、親の方が泣いた」と話していました。結局、先輩は好きな仕事が諦められずそのまま仕事を続け、まもなく正社員になりました。しかし正社員になった時期の遅れのハンディは、定年まで付きまとったと私は見ました。「封建制度は親の仇」という福沢諭吉の言葉に倣えば、「非正社員制度は先輩の仇」です。

○ここで最高裁判決に戻ると、第3小法廷の判決では、例えば退職金を非正社員に支給しない理由として「職務を遂行し得る人材の確保や定着を図る目的から、様々な部署で継続的に就労することが期待される正社員に支給される」としています。ここではいかにも正社員が生得「職務を遂行し得る人材」であるかの如く書いてありますが、これは全く誤った認識です。

○職務を遂行し得る力は、実際に職務について懸命に取り組み、先輩や上司、更には取引先などに「しごかれて」身についていくものです。会社での最初の「身分」がどうであったかは全く関係がありません。非正社員でも同じように取り組ませれば、「職務を遂行できる人」に容易になることでしょう。正社員と非正社員とで、もともと大した力の差があるとは思えません。

○ではなぜ、公平な人事制度にせず、非正社員制度などというものをを作ってきたのでしょうか。その答えはただ1つ、人件費を抑えるためです。そして非正社員はどんどん増え、太るのは企業ばかり。しかしそのことによるマイナスは大きく、20世紀末、GNPが世界一のアメリカに迫ろうかという勢いだった日本は、今や世界で何番目か、ほとんど誰も知らないという始末。

○現在の日本ではこの30年来、政府部門が大赤字で資金不足、家庭部門の貯蓄が減少傾向、企業部門が資金過剰の傾向が続いています。家庭部門、すなわち労働者にお金が回らないこと自体、需要不足を招くなど経済発展を妨げます。

○もう1つ、正社員と非正社員の格差問題が生産性を低くくし、日本経済の発展を妨げている理由があります。それは非正社員については最初から待遇に格差をつけてよいという考え方なので、経営側は非正社員労働者の査定(考課)に真剣に取り組まない、という問題です。査定と言うと、労働者いじめのように聞こえますが、そうではなくて、高い給与を出さなければならばならないなら,その労働者をどう活かして働いてもらうかを真剣に考える、というのが査定です。

○現状は雇用人口の40%もの人について、経営側が労働側と真剣に向き合う機会を自ら損なっている可能性があるわけで、正社員と非正社員の待遇格差の解消は、日本経済の再発展のためにどうしても必要なことです。

○最高裁は今回の判決の中で、「賞与や退職金の不支給が(ケースによっては)『不合理』とされることがあるり得る」としています。正社員と非正社員の待遇格差の解消を求める訴えは、今後も続くと考えられます。最高裁さん、ことは日本経済が再生するかどうかの大問題に直結する問題です。今後は、しっかり現場の労働実態を見据え、大所高所からの判断をお願いしますよ!

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