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「事実」と「論」コロナ対策でどちらが優位か

○「論」(セオリ―)はそのよりどころとなる「事実」(ファクト)無くして成立しないのは、言うまでもありません。その一方で、「論」なくして「事実」が解明できないのも明白です。互いに助け合う関係ですが、その力関係は状況によると言えます。コロナ問題では事態が進行するにつれ、「事実」より「論」が重要になってきました。

○コロナ感染の初期の段階──今年の2月ごろ、世界的に大きな「論」になったのは、コロナにどう立ち向かうかという根本の方針の問題でした。つまりワクチンが発見されず、治療薬もない中で、感染から逃げず集団免疫を獲得して長期的にコロナを克服するか。それともロックダウン(都市封鎖)などの方法で人と人の接触を極力減らして、コロナ感染をやり過ごし治療薬の開発を待つか、です。

○コロナ感染による被害が世界で最も大きい国の一つと言われるイギリスでは、集団免疫を期待し、ロックダウンなどは3月下旬まで実施しませんでした。ヨーッロッパでは当初イタリア、スペイン、フランスで感染が拡大し多数の死者が出ましたが、5月5日にはイギリスが死者数でイタリアを抜いて最多となりました。7月26日現在では、イギリスの累計感染者数は30万人で世界で9番目に多く、死者数はアメリカ(14万6千人)、ブラジル(8万6千人)に次ぐ3番目で、4万5千人に上ります。

○イギリス政府に都市封鎖を促がし、容れられなかった疫学者が、6月10日に英下院で「封鎖があと1週間早ければ、死者は半数だった」というショッキングな見解を示しました。イギリスのコロナ対策はこれまでのところ、大失敗と言えます。集団免疫の獲得で解決するという「論」が、新型コロナウイルスの強い感染力という「事実」の前にあえなく敗退したわけです。

○では、世界的に感染拡大が勢いを増し、いわゆる第2波の襲来を思わせる中、経済の維持という問題も抱え、世界各国はどのような方針を取ったらいいのでしょうか。「こうすれば解決する」という便利な道がないことが明らかになった今こそ、コロナウイルスによる感染拡大をどうとらえ、どういう方針で対処していくのかの「論」が、必要なのではないでしょうか。

○そしてその論は、事態を片付ける魔法の様な解ではないことは容易に想像されるだけに、なぜそうした方法を取るのか、それによってどのようなことが期待されるのか、論を実行する政府が国民に説明し、納得してもらうことが必要です。そうでなければその効果は期待できません。

○コロナ問題を抱えた政府と国民の関係について、5月24日の東京新聞で、英誌「エコノミスト」のビル・エモット元編集長が、実に鋭く有益な考察(論!)を開陳しています。

○ビル・エモット氏の主張はこうです。イタリア、スペイン、フランス、英国という欧州の大国では、多大な死者を出したという共通点があります。このため、それぞれの政府への批判とは、感染者の致死率の高さと受け入れ態勢の失敗に比例するものと普通は思われます。しかしイタリア、フランス、スペインの現政権は国民から支持があり、人気が高い。ところが英国は、ジョンソン首相(保守党党首)の世論調査の支持率が、去年の12月、総選挙で大勝した相手の労働党のスターマー党首を下回っています。なぜそうなったのでしょうか。

○エモット氏は「国民の信頼を得るは、政策決定と国民との意思疎通に一貫性があり、明確なことが重要だ」とした上で、「英国は米国と同様、しばしば方針を変え、誤ったメッセージを送り続け、自らの施策をきちんと理解していなかったようだ」としています。あれっ!? 安倍政権に対するコメントみたいですね。

○ご心配なく。エモット氏は遠回しの言い方ではなく、安倍政権についてもズバリ、コメントしています。「日本は政治状況は英国と似ているかもしれない。それは安倍政権が一貫性を欠き、有権者との意思疎通がうまくいかず、支持率を下げているからだ」と。

○さて、その安倍首相、国会閉会の翌日の6月18日を最後に、1か月以上、記者会見を開いていません。衆参両院で週1回ずつ開かれている閉会中審査にも1度も答弁に立ったことはありません。

○要するに、再び感染者が増え、状況は悪化の一途というこの国難の時に、国民に語りかけるつもりがないのです。ゴー・トゥー・トラベルなどと、積極的に旅行・外出を促す政策を何故今実施するのか、説明はありません。

○私にやる気のない受験生の息子か娘がいて、学校に行かず勉強もしないなら、「お前のための受験だぞ!」とどやしつけるでしょう。しかし安倍さんがやる気がないのなら、こう言います。「一刻も早く、辞めていいですよ。それが国民に迷惑をかけない道です」

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