世間知らずの起業物語 その19
新しい会社の登記に向かった神奈川の法務局から会社に戻る最中、果たして3人で会社をスタートすることが良いのか?突然降りかかってきた想定外の出来事を頭の中で整理していた。
プログラミング研修
登記が終わり、会社に戻り、管理部の村上さんへ資料を渡しに行った。
僕:『あれ?村上さんは?』
武藤:「あ、今、席外してますよ?どうしました?」
僕:『資料をね、渡してほしいだけどね。』
武藤:「いいですよ!渡しておきますよ!」
と、管理部の村上さんの部下である武藤さんが受け取ってくれた。
武藤:「佐藤さん、実は私、夏休みを利用してプログラミング研修に2週間行くんですよ。」
僕:『え?武藤さんが?なんで?』
元々、SIerだから、プログラミング研修なんて、お手ものもだ。
しかし、管理部の1担当者である武藤さんがなぜプログラミング研修なんて・・・と、川上会長が何か言ったのか?と、頭に浮かんだ。
武藤:「私は元々、飲食事業で東南アジアの仕事に関われるというので、会社に入ったんですよね。いまは管理部だけど。」
確かにそうであった。
東南アジアに興味あるということから、当時、飲食事業が海外での展開を想定していたために入社したのだった。しかし、管理部の担当者が同じタイミングで次々に辞めてしまい、会計事務所での勤務経験のある武藤さんに白羽の矢がたったのであった。
武藤:「なので、現地の知り合いに、日本人向けの海外合宿のプログラミング研修事業の立ち上げに誘われたんですよ!お手伝い、というか、体験的なもので、タダで参加させてくれるんですって!いいと思いません?」
僕:『え?タダなんだ。いいじゃん!』
いいじゃん、と言ったものの、この手の海外でのプログラミング研修は詐欺的なものもあるからなぁと思っていた。
武藤:「それで、Pythonってのを習うみたいなんですが、2週間行くんです。だから、夏休みと+αでお休みいただいて、行こうと思ってるんですよ。」
休みすぎ?
僕:『いいねぇ。Pythonは今は流行りの言語だから良いよ。僕も習いたいくらい(笑)休みはOKもらったの?長めになるけど。」
武藤:「はい!会長にはOKもらいました。それで有給もなくなっちゃうけど。でも、プログラミング習うって言ったら、会長もいいねって、言ってくれました。」
そうだろう。
会長はこう言った、新たなチャレンジには比較的好意的に対応してくれる。
とくに、IT関係は元々のグループの主事業であるから、興味を持ってくれることにはとても嬉しく思っているだろう。
こういったことに融通がきくことも、グループの特色であった。
武藤:「けど・・・」
僕:『けど?』
と、話している最中に、村上さんが戻ってきた。
村上:「あ、お疲れ様です。」
僕:『あ、登記してきたよ。』
武藤さんが、先ほど渡した資料を村上さんに手渡した。
そして、そのまま、銀行に行くといって、部屋を出ていった。
村上:「さすが、佐藤さん。仕事が早いですね。」
僕:『いや、そんなことないですよ。行ってきただけなんで』
村上さんは、ソフトな話し方で、僕に対応してくれていた。
僕:『そういえば、武藤さん、プログラミングの研修に行くんだって?会長もOKしてくれたみたいじゃん?』
村上:「そうなんですよ。ありえないですよ。」
『え?』と心の中で呟いたが、それを声に出すよりも早く村上さんの話が続いた。
村上:「夏休みと続けて、2週間の休みなんて、ありえないですよ。会長も、おそらく武藤さんに言われて、仕方なくOKしたんだと思うですよね。だから、ちょっと、私は許可できない感じです。」
先ほどの私とのやりとりとは大きく変わり、口調がキツくなっていた。
僕:『でも、プログラミングだとIT事業もグループにあるし、会長もだからOKしたんじゃないの?』
村上:「そんなことあるわけないじゃないですか。ありえないですよ。研修で2週間休みなんて。だから、武藤さんには、行くならば退職届を書いて行くようにって言ってあります。」
僕:『え?そこまでするの?それくらいの気持ちで行けってこと?』
村上さんからの返事はなかった。
なんだか、重々しいことになっているなと感じながら、退職届書かせてどうすんだろう?と疑問を持ちつつ、空気まで重くなった管理部を後にした。
現体制(2019年7月時点)
つづく
※この物語はフィクションです。
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