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ゴッサム・シティと福山市がまさかの「コラボ」 福山城にはバットマンの影!?

 あのバットマンが福山城に現れる―。こんなうわさが、広島県東部の福山市で広まっています。米人気コミック「バットマン」の舞台である架空都市ゴッサム・シティと福山市が世界初の友好都市提携を結んで1カ月余り。地元の商店街では、メイン通りにゴッサム・シティにちなんだ愛称が付けられるなど、ちょっと盛り上がっています。(原未緒)

殿様かと思いきや…バットマン?

 日没間もないJR福山駅北口。今年築城400年を迎えた福山城の月見やぐらを見上げると、バットマンらしきシルエットが窓に浮かび上がっていた。ツイッター上では「バットマンが見下ろしてる」「バス降りたらバットマンいるー」などと投稿が相次ぐ。

福山城の月見櫓の窓に浮かび上がったバットマンのシルエット。城下を見守っているようだ(撮影・井上貴博)

 近くをウォーキングしていた会社役員山本雄一郎さん(57)は「お殿様が夜景を眺めているかと思ったら、バットマンだった」と笑った。

「思ったより反響」

 仕掛けたのは、福山市の文化振興課。築城400年事業推進担当の渡辺真悟担当課長は「特別な周知はしなかったが、思ったより反響があった」とにやり。ゴッサム・シティの市民がバットマンを呼ぶ際に照射する「バットシグナル」にちなみ、JR福山駅南口の天満屋福山店の壁面にも、新作映画「THE BATMAN―ザ・バットマン―」のロゴを期間限定でともした。

「ゴッサム通り」登場

 福山駅前の伏見町商店会では、飲食店やアトリエが立ち並ぶ約170㍍のメイン通りの愛称を「伏見ゴッサム通り」と命名。役員たちが会員制交流サイト(SNS)で発信したり、福山城とバットマンがコラボしたポスターを店先に貼るなどして通りのPRを進める。

伏見ゴッサム通りに立つ役員

 発案者は副会長の君野和史さん(44)。商店会は昨年春に発足したばかり。「伏見ローカルツーリズム」と名付けて、食を通じて瀬戸内の魅力をPRするイベントや、市内の映画館で会員の店の商品を販売するなど独自の取り組みを進める。

 君野さんは「住民が減り、まちの発展のための資金が集めにくい。バットマン人気にあやかってまちの魅力を老若男女に知ってもらい、人を呼び込みたい」と期待する。

真っ黒なカレーや黒ビールも

 ゴッサム通りでは、バットマンにちなんだメニューも登場しつつある。君野さんが営むカレー店「旧水曜カレー」では真っ黒な「伏見ゴッサムCURRY」を開発。カルダモンなど多彩なスパイスが香るチキンカレーにイカスミパウダーを加えた。

 カレー店向かいの醸造所「備後福山ブルーイングカレッジ」も、ゴッサム・シティに住むバットマンをイメージした黒ビールを近く発売するという。

福山市産の野菜をトッピングし彩りよく仕上げたゴッサムカレーを持つ君野さん

 レンタル大手TSUTAYA(ツタヤ)は、福山市や尾道市の14店舗でバットマンシリーズの特設コーナーを設置。シリーズのDVDを借りた客先着20人にポスターをプレゼントしている。

TSUTAYAのバットマンコーナー

ダークな街との提携 果たして、福山市の治安は…?

 ゴッサム・シティといえば、泣く子も黙る犯罪都市だ。バットマンシリーズ初心者の記者が勉強のため初期の映画を見ると、開始まもなく親子連れが強盗に襲われた。バットマンの活躍で平和が訪れたかと思うと、次の映画では新たな敵が街を牛耳る。「ダークなまちと提携したのか…」と生唾を飲み込んだ。

 友好都市提携を知らせるネットニュースやSNSには「そんなに治安が悪いのか」など福山市の治安を不安視するコメントも寄せられている。福山市の市民生活課の近藤剛・市民安心安全担当課長は「安心安全なまちづくりを進めており、福山市内の刑法犯認知件数は毎年過去最少を更新しています。全くそんなことはないのでご心配なく」と念を押す。

コウモリが縁で提携

 そもそも、なぜ福山市とゴッサム・シティが提携したのか。それは福山城が立つ場所が古くから「蝙蝠こうもり」と呼ばれたことにちなむ。中国ではコウモリは福をもたらすとの言い伝えがあることから、福山の地名の由来になったとされている。

福山市章

 1917年に制定された福山市章はコウモリをイメージしたもので、後に出版されたバットマンの漫画に登場するマークと「似ている」と市民の間で話題になっていた。

 2022年は福山城の築城から400年。節目に城を広く知ってほしい市と、映画をPRしたい配給先のワーナーブラザースジャパン合同会社(東京)の思いが一致。世界初の提携が実現した。

提携を発表した福山市の枝広直幹市長

 市民の反応はどうだろう。3月下旬、「伏見ゴッサム通り」を友人と歩いていた高校1年女子(16)は「今初めて知った」と驚きつつ「世界初はすごい。面白い」と目を輝かせた。JR福山駅北口で客を待つタクシー運転手の男性(56)は「いい取り組みだが、市民の盛り上がりはいまいちだと感じる」と話した。

「福つまみ」や垂れ幕でPR

 福山市は市役所1階のロビーに、協定書やポスターを展示してきた。新作映画に出演する俳優が築城400年にも触れるグリーティング映像もテレビ上映し、来庁者にPRした。ほかにも駅南口周辺の広島銀行福山営業本部が入るビルに提携を知らせる垂れ幕を掲げる。市内の55の飲食店で市の特産品を使ったつまみ「福つまみ」を食べて応募すると、新作映画のロゴ入りのステッカーを配るキャンペーンもした。

今回の友好都市提携について、映画「THE BATMAN―ザ・バットマン―」のキャストからのグリーティング映像はこちらから⇩⇩⇩

多数の映画やドラマのロケ地になった福山市 「いつかバットマンも…」

 福山市文化振興課の渡辺担当課長は「実は福山は多くの映画やドラマの舞台になっているんです」と話す。備後地方の「映画のまち」といえば隣の尾道市のイメージが強いが、いやいや福山市も負けていない。

 風光明媚めいびな観光地として知られる鞆町の鞆の浦は、2013年公開の映画「ウルヴァリン SAMURAI」や、西島秀俊さん主演で15年放送の連続ドラマ「流星ワゴン」のロケ地に。宮崎駿監督の映画「崖の上のポニョ」の舞台モチーフにもなった。最近では遊園地「みろくの里」近くの写楽撮影所で映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」の撮影も行われた。

 ロケの誘致などに取り組むふくやまフィルム・コミッションの宗野慎司さん(42)は「提携をきっかけに、映画のファンに福山市に興味を持ってもらえれば。バットマンが福山で撮影されたらいいですねえ」と期待している。

映画「THE BATMAN―ザ・バットマン―」は現在も公開中⇩⇩⇩

年間連載「福山城考」
中国新聞備後版では、福山城築城400年の節目に城の魅力や福山藩の歴史に焦点を当てた「福山城考」を連載中しています。ぜひ読んでみてください。