見出し画像

電車の中などで迷惑行為に出遭ったら‥相手に注意するべき?

 電車などの車内で、マナーを欠いた乗客に出遭ったとき、注意をするべきかどうか迷ったことはありませんか。1月には栃木県の電車内で、喫煙を注意した高校生が暴行を受ける事件が起きました。この春から進学や就職で電車に毎日乗る生活を送る人もいるでしょう。トラブルを避けつつ、迷惑行為に対処するにはどうすればいいでしょう。広島県内の鉄道会社や犯罪心理の専門家に聞きました。(田中謙太郎)

まっとうな注意から口論、最悪暴力に

 1月23日に栃木県内のJR東北線で起きた事件。優先席に寝そべって加熱式たばこを吸っていた20代の男に、男子高校生が「やめてもらえますか」と注意をしました。すると男は逆上。車内や停車駅のホームで高校生に殴る蹴る暴行を加え、顔面骨折などの重傷を負わせました。男は傷害容疑で逮捕、送検されています。

 電車内でのトラブルは首都圏や関西など都市部で起きることが圧倒的に多いです。ただ広島県内でも、暴力に至らずとも、乗客の迷惑行為をめぐるトラブルはあるようです。広島市内の路面電車を運行する広島電鉄によると、2019年度以降、電車内で乗客同士が口論になるなどして警察が出動したケースは15件新型コロナウイルス禍でマスクを着けずに大声で話す人や、座席を占領する人への注意が発端でした。

会話や座り方…迷惑行為はいろいろ

 そもそも、電車内や駅でのどんな行為が迷惑に感じられるのでしょう。日本民営鉄道協会(東京)が2021年秋、約2千人に実施したウェブ調査(複数回答)によると、最多は「騒々しい会話やはしゃぎまわり」(39%)。「座席の座り方」(37%)、「乗降時のマナー(扉付近で妨げるなど)」(30%)と続き、「酔っぱらった状態での乗車」(17%)との回答もありました。

 マナーの悪い乗客に遭遇したときの対処について、広島電鉄の担当者は「できるだけ直接注意したり、我慢したりせず、乗務員に声を掛けて任せてほしい」と話します。問題が大きくなるのを防ぐためです。乗務員で収拾がつかないと、すぐ110番するようにしているようです。

 ただ、迷惑行為に対処する乗務員や駅員も、暴力にさらされる実情があります。国土交通省の2020年度の調査によると、全国で439件に上りました。こうした背景もあり、鉄道会社は警察との連携や防犯カメラの設置を進めています。

専門家も「乗務員に任せて」

 専門家も乗客が直接注意することはリスクが大きいとの立場です。福山大の大杉朱美講師(犯罪心理学)は「電車内で起きたことに対応する役割があるのは係員で、電車内を取り仕切る『権威のある人』とも言える。係員に対応してもらった方がいい」と指摘します。

 大杉講師は、迷惑行為をする人が注意に対してどんな態度を取るか、見た目だけでは判断しにくいと言います。自分が悪いと思ったり、仕方ないと受け止めたりする人なら大丈夫でしょう。でも逆上する人は注意によって自分の自由が侵害されたと感じ、怒りを抑えきれず、攻撃に向いてしまうのです。エスカレートすれば暴行や傷害事件に発展し、凶器を持ち出すリスクもあります。

 では、もし栃木県の事件のように、乗り合わせた電車で暴行を目撃してしまったときは―。路面電車と違って車両数が多いJR線は、すぐ乗務員を呼べるとも限りません。JR西日本広島支社は「車内の『SOSボタン』をちゅうちょなく押してほしい」と勧めます。離れた所にいる乗務員と連絡が取れ、すぐ駆け付けてくれます。自分に被害が及びそうで怖いときは、隣の車両に逃げてからボタンを押すと安全です。SOSボタンを押すと基本的に電車は停止する決まりになっているので、いたずらは禁物です。

説得的コミュニケーションを

 ただ、車内で他人と一切関わるなというのも難しい話。おしゃべりがうるさいグループもついつい声が大きくなり、乗降口をふさぐ人も偶然そこに立っていただけの場合もあります。もしすぐ気付いてほしければ、どう声を掛けるか。大杉講師は「説得的コミュニケーションが重要です」と言います。

 説得的コミュニケーションとは、相手の反発を避けつつ、行動を改めてもらうことを狙う会話などのこと。一例が、「ちょっとすみません」とやんわり声を掛けることです。その一言で自分の行為がまずかったと気付けば、話すのをやめたり、どいたりします。大杉講師は「否定や命令のニュアンスは出してはいけない。『やめてください』と言うのは禁物です」と指摘します。

 公共の空間ながら閉鎖的な電車内。トラブル回避や身を守る行動には、さまざまなリスクがあるという意識を持つことが大切なようです。