広島でも増える「ライバー」 投げ銭も飛び交っていました
「ライバー」というネットで動画を生配信する人が、広島の若い世代でも増えています。雑談したり音楽を流したり、ジャンルはさまざま。コロナ禍でライブ配信市場は急成長し、存在感を増しています。視聴者とリアルタイムで交流し、ファンが広がっているようですが、いったい何が魅力なの? 広島のライバーに聞いてみました。(栾暁雨)
「雑談系」ライバー、自己肯定感もアップ
~東広島市の「はすくっきー」さん(26)
「友達が自分の部屋に遊びに来てくれているような距離の近さが楽しい」。そう話すのは、東広島の女性ライバー「はすくっきー」さん(26)です。460万人がダウンロードするアプリ「SHOWROOM」を使っています。はすくっきーさんと雑談をワヤワヤするために、多い時には500人ほどの視聴者が訪れるそうです。
どんなふうに生配信しているのでしょう。自宅を訪ね、様子を見せてもらいました。家事を終わらせて2人の娘を寝かしつけた夜9時半。メークをして、三脚に固定したスマホの前に座ったら準備完了です。
事前に配信告知をしていたので、始まった瞬間、コメント欄には視聴者からの書き込みがあふれました。「くっきー久しぶり」「服かわいい」「きょう何してた?」…。友達と話すようなノリです。
顔も年齢も分からないアバター姿の視聴者たちに手を振り、すぐさま反応します。「〇〇さん、いらっしゃい」「来てくれてありがとう」。これまた親しい友人のように一人一人の名前を読み上げ、ライブ配信特有のあいさつで迎えます。約1時間で200人以上が入室しました。
はすくっきーさんの配信は、視聴者からの質問や感想コメントを拾って話を展開する「雑談系」。ラジオのトーク番組と似ています。「仕事疲れた」「来週は残業があるから子どものお迎えに間に合うかなー」。一日の出来事を報告したり、愚痴を聞いてもらったり。質問に答える形で話題もどんどん飛び、話が想像していなかった方向に進む面白さがあります。
居住地も年齢も違う人たちが、「推し」のライバーを中心とした小さなコミュニティーを作っているようです。中には「投げ銭」をしてくれる人も。プレゼントのような課金アイテムで、アプリ内で使えるタイプと換金できるタイプがあります。1日4回の配信で計2万円分をもらったこともありますが、「お金のためにやってるわけじゃない」と言います。
「気分転換できるし、人と話すこと自体が好き。自己肯定感もアップしました」とはすくっきーさん。配信を始めたのは今年6月。当時の職場では仕事内容が合わずうつ気味になっていました。落ち込んだ気持ちを慰めてくれたのが先輩社会人でもある視聴者たち。アドバイスをもらい少しずつ元気になったそうです。コロナ禍で実際に人に会う機会が減る中、コミュニケーションが取れる環境は貴重なのかもしれません。
そんな妻を横目に、夫は複雑そう。多忙な会社員で、毎日朝早く家を出て、帰宅は深夜。配信にはあまり賛成していません。「自分がいない間、子育てがおろそかになるんじゃないかと心配しているみたいで…」。夫に気は使いますが、女性は回数を減らしても配信は続けたいと言います。「私にとっては味方がいる大切な居場所。応援されるとうれしい、みたいな承認欲求もちょっとあるかも」と教えてくれました。
ライブ配信アプリの利用者は伸びています。アプリ分析サービスのアップエイプによると、「SHOWROOM」など主要11アプリの月間アクティブユーザーは計900万人(2020年4月)。620万人だった2019年6月と比べて300万人近く増えています。コロナの外出自粛の影響も大きいようです。
「Vライバー」、鳥の姿でウクレレ演奏
~広島市の「とりのぴぃ」さん
顔を出さず、キャラクターを設定して配信する「V(バーチャル)ライバー」もいます。話を聞いたのは広島市に住む「とりのぴぃ」さん。普段は会社員ですが、配信中は「広島に生息する鳥」になります。
なんで鳥? 聞いてみると意外に真面目な理由でした。「見た目や年齢などの先入観を持たず、関係を築けるから。純粋に配信を楽しんでほしい」のだそうです。
★★広島のVライバー「とりのぴぃ」さんのある日の配信 ↓↓↓↓↓
広島のお薦めスポットなど地元ネタで雑談しつつ、趣味のウクレレを弾きながら歌うスタイル。ポワンとした楽器の音とアニメ声優のような特徴的な声に癒やされる人は多いようで、平日夕方の配信なのに300人が集まりました。歌い始めると、投げ銭が殺到。使っているアプリの画面はライブ会場風のデザインで、アイドルをファンが囲んでいるかのようです。
「視聴者同士でライバーの魅力を語り合うなど、ファン同士の交流も生まれていますよ」とも教えてくれました。深く濃く、自分たちだけのコミュニティーを楽しんでいます。
自分だけの「推し」と触れあう没入感
~リスナー代表、広島市の男性会社員(28)
動画配信をよく見るという広島市の会社員男性(28)に聞いてみると「リアルっぽさと親近感がいい」のだそうです。画面にライバーの顔が大写しになって名前を呼んでくれる様子は、「会いに行けるアイドル」のように、自分だけの「推し」と触れ合える感覚を味わえるんだとか。なるほど。
動画配信の代表格といえばユーチューブですが、ライブ配信はどう違うのでしょうか。
投稿された動画を視聴者が好きな時間に見るユーチューブに対して、ライバーと視聴者がコメントを介して瞬時に交流できるのがライブ配信です。台本も演出もないテレビの生放送のイメージ。「やってみた」系動画のような企画・編集力が求められるユーチューバーと違って、目を引く企画や作り込まれた絵面はあまりありません。「でもそんな素人ぽいチープさが癖になって、妙な没入感がある」と男性は力説します。
コロナで休業中にクラブ音楽を配信するDJ
~広島市でバーを経営する瀬川さん(39)
最後に訪ねたのは、新型コロナの拡大がきっかけで音楽配信を始めた男性。広島市内の歓楽街でバー「COVER」を経営するDJの瀬川真広さん(39)です。配信歴は1年半。密を避けるためにいち早く休業し、広島のクラブ文化を守ろうとアプリ上に「poipoiスタジオ」を開設しました。DJネームは「豚(とん)ちゃん」。音響にこだわってクラブミュージックを流します。
10月のある日、休業中の店に立って配信を始めると、すぐに視聴者からのコメントであふれました。「選曲最高!」「生音源の感じ良き」。オンラインとは思えない盛り上がりです。瀬川さんは「一体感がすごいでしょ。コロナ禍でも人のつながりは作れる。うれしいよね」と手応えを感じています。
相手がどんなテンションで、どんな曲を欲しているのか、コメントの雰囲気から判断して曲選びをします。1回の配信は3、4時間。それを朝昼晩の3回やっています。「睡眠時間削ってるんだけど、音楽好きの視聴者との絡みが楽しくてさー」。自分もノリノリです。
スマホやパソコンがあれば誰もが動画配信できる時代。「視聴者に応援してもらう」「ライバーから名前を呼ばれる」というのは、得がたい経験なのかもしれません。小学生にも憧れられる「生き方」として定着したユーチューバーのようにライバーも今後、同じような広がりを見せるのでしょうか。
メディアに詳しい識者からみると
若い世代がライブ配信を楽しむ背景を、東洋英和女学院大の小寺敦之教授(44)=メディア論=に聞きました。
SNSなど自己発信型のコンテンツがはやると、メディアのみなさんは「肥大化した若者の承認欲求」と結論付けたがります。でも私の考えはちょっと違います。スマホの高性能化などによるデジタルの進化によって、自己表現の舞台がネット上に移っただけなんじゃないでしょうか。
長い間、動画制作や映像配信はテレビマンたちがするもので、一般人には敷居が高かった。手軽に配信できる環境が整い、若者が参入したんです。
自己表現の場を求めるのはどの年代にもある欲求で、若者だけの特長ではありません。上の世代が地域のイベントなどに絵や書を出展したり、新聞に俳句を投稿したりするのと似ています。アプリを使いこなせるようになれば、中高年も配信を始めるようになるんじゃないかな。
同じ動画配信系でも、最近のユーチューブは「テレビっぽく」なっています。芸能人が参入し、一流の機材を使う。視聴数を稼ぐために、時間とお金をかけた動画が増えています。だからこそ、より双方向性があり、交流を楽しめるライブ配信が支持されているのかもしれません。
今は価値観が多様化し、好みが細分化している時代。近くに同じ趣味の人がいなくても、ネット上に仲間を求めることができます。誰かとつながる満足感を得やすいライブ配信は、「ニッチ化」した社会に合うコンテンツなのでしょう。
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