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巨大なヘッドドレスは、「らしさ」「性別」から自分を解放する表現方法でした

 花や羽根がこれでもかとあしらわれた巨大なヘッドドレス、青いラメリップ…。奇抜な装いで、社会が押し付ける「性別」や「らしさ」を越えようとしてきた人がいます。男性ながら女性の装いをするドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さん(年齢非公表、東京)。全国でヘッドドレスの作り方を紹介し、尾道観光大志(大使)も務めます。頭を飾ることの意味とは何なのでしょうか。(栾暁雨)

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喜怒哀楽が浮かび上がるヘッドドレス

11月中旬、広島市中区の広島三越であったワークショップを訪ねました。ヴィヴィアンさんは黒のワンピースに20センチ近くあるハイヒールで登場。鳥が羽ばたくようなアイメークと、ピンクのかつらに秋色のシックなヘッドドレスを合わせていました。買い物客が足を止めて、興味深そうにのぞき込んでいきます。

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 参加者たちは思い思いに、花を切ったり、布やチュールを縫ったり貼り付けたり。6時間かけて自分だけのヘッドドレスを完成させていきます。安芸太田町の中野千春さん(45)が選んだ素材は、布や乾燥トウモロコシ、小枝。テーマは「収穫祭」です。感性のままに、カラフルな異素材の組み合わせを楽しむ時間は何だかとても自由でした。

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 ありのままの自分を生きるメッセージとして、ヴィヴィアンさんはこれまで、全国で数千人にヘッドドレスの作り方をレクチャーしてきました。どの作品にも、作り手が内に秘めている喜怒哀楽が浮かび上がり、本人も気付かなかった潜在的な一面が現れるのだそう。ヘッドドレス作りは、「そのときの自分の中身がちょっとだけ外にせり出したもの。本能的な部分に近づくというか、本来の自分と向き合う行為」と言います。

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 ヴィヴィアンさんの数百に上る作品の中には、リカちゃん人形やトランプ、しめ縄、チョコレートの箱など、「えっ!これ使っちゃうの? 頭に載せちゃうの?」と驚くような素材も少なくありません。肩幅より広く張り出したサイズのものも。完全にアクセサリーの枠を超えています。

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 既存の価値観にとらわれない表現方法を求めるようになったのはなぜなのでしょう。

社会の中で名付けられない存在になりたい

 ヘッドドレスを作り始めたのは、金沢の大学で建築を学んでいた25年ほど前。仙台市生まれのヴィヴィアンさんは、小さい頃から「男の子なんだから」と型にはめて育てられることに違和感があったそうです。かといって女性になりたいわけでもない。美術が大好きで、成長するにつれ、愛用の絵の具はメークポーチに、画用紙は顔へと変わっていきます。

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 そして大学時代、たまたま見つけたのがゲイバーのアルバイト。店で出会う人たちの生き方に魅せられ、刺激を受けました。でも、しばらくすると、そこでも「オネエ言葉」のようなステレオタイプな「ゲイらしさ」「ニューハーフらしさ」を求められ、心地悪さを感じるようになります。

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 そして、気付きました。自分のなりたかったものは「カテゴライズされた『らしさ』にとらわれない存在。社会の中で名付けられない存在」なのだと。それを体現するドラァグクイーンという生き方に引かれ、「頭上建築」と呼んでいるヘッドドレスで着飾るようになりました。

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 ドラァグクイーン以外にも、「非建築家」や映画評論家、アーティストなど多彩な顔を持ちます。ちなみに「非建築家」というのは建物を建てない建築家のこと。大学卒業後に巨匠・磯崎新さんのアトリエに入りますが、ビルなどの無機質な構造物を造ることにはどうしても興味が持てませんでした。代わりに頭上の「敷地」に、ヘッドドレスという建築を建てているのだそうです。

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全国で町おこし 尾道観光大志に


 得意分野を生かし、全国で町おこしも手伝っています。東京・新宿在住のヴィヴィアンさんは、雑多なものが共存する新宿の個性が大好き。「都庁や歌舞伎町、大学とかいろんなイメージがあるでしょ。しかも混ざってない」。今はやりの「多様性」といううわべの言葉じゃなく、本当の意味であらゆるものが共存する場所を作りたいのだそうです。

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 6年前からは尾道観光大志に就任。映画祭や空き家再生のプロジェクトに携わり、ヘッドドレスで街歩きをするイベントも企画します。山の稜線(りょうせん)や海岸線とヘッドドレスのシルエットが作り出す光景はまるで「歩く展覧会」。多くの人が振り返ることで、アートと鑑賞者の関係ができあがります。

 さらにはヘッドドレスを身につけて街を歩くことは、その人を「マイノリティーにする」のだと言います。「こういう生き方もあるし、こういう価値観もあるというメッセージになる。住み慣れた街の見え方が少し変わるんです」

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 実はLGBTやSDGs(持続可能な開発目標)というワードもあまり好きではありません。「もてはやされているけど、形骸化し消費されている」と言います。同性婚も政治利用されている感じがして違和感あるのだそう。「そもそも結婚という制度が前近代的で枠にはめられているものだから。したい人はしたらいいし、したくない人もいていいんです」

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 自分の「性」を生きるヴィヴィアンさんを象徴する巨大なヘッドドレス。私たちが無意識に感じている「男らしさ」「女らしさ」や、社会生活で常につきまとう「こうあるべきだ」といった規範から自分を解放する大切さを問い掛けているようです。

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 ヴィヴィアン佐藤さんの作品は、広島三越2階の「ヒューマンギャラリー」で12月末まで展示を予定している。
【中国新聞デジタル】
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