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結婚するのは当たり前?周囲の空気がプレッシャー ~連載「ソロの時代」から

 結婚するのが当たり前? 「ソロ」を選んだ人たちにはみんなに結婚するよう求める「皆婚プレッシャー」を煩わしく感じているようです。同僚の何気ない一言、周囲に満ちているように感じる暗黙の「常識」‥。広島市内の30、40代の胸の内に耳を傾けました。(馬上稔子、田中謙太郎)

「結婚=成功」? 恋バナ嫌になる

 あれほど楽しかった職場での雑談が、広島市佐伯区の契約社員女性(33)にはつまらなくなった。休憩スペースで同僚の女性たちと盛り上がる「恋バナ(恋愛話)」。みんな、3年ほど付き合っている彼氏のことを知っている。「結婚しないの?」。そう聞かれるたび、ごまかしながら心の中で独りごちてしまう。

 「まるで『結婚すること=成功』みたい。妙なプレッシャーをかけるのは、ほんとやめてほしい」  特に30代の同僚男性は未婚者に否定的だ。自分は既婚でリードしているつもりなのだろう。話題に上る同僚が独身と分かると「ああいう人は結婚できない」と難癖をつける。その様子に「ソロハラスメントじゃないの」と不満が募る一方、はたと思う。「反応してしまう私もどこかで結婚を意識しているのかも」。そんな自分がちょっと嫌になる。

事実婚でもいいじゃない

 彼氏とは将来について話し合っている。互いに起業の夢があるから、「まだ結婚のタイミングじゃない」と確認している。結婚したくないわけではないが「正直、いろいろ面倒くさい」とも思う。結婚したら、まず生活リズムが変わる。正月やお盆に相手の家族と過ごすのは気を使いそうだ。子どもができるまでは「事実婚」でもいいじゃない―。それが2人の「現在地」だと納得している。

 「彼氏の実家へあいさつに行かないの?」。同居する母親は、やんわり探ってくる。あるとき「孫の顔が見たい」とぽろっと本音もこぼれた。結婚するのが当たり前でしょ―。凝り固まったような意識があちこちに残っている。「まだ多様な生き方が認められてないですよね」。そう感じる。

4人に1人は「結婚当たり前」

 NHKが5年ごとに行っている「日本人の意識」調査によると、2018年は16歳以上の回答者の27%が「人は結婚するのが当たり前だ」と答えた。同様の質問を始めた1993年の45%より減ったものの、依然として4人に1人が結婚すべきだと考えている

 ほとんどの人が結婚した80年代までは、日本は「皆婚(かいこん)」社会と呼ばれた。その頃に家庭を築いた親世代の重圧に、子ども世代は自身の結婚をめぐって揺れている。

踏み切れない結婚 ブレーキのわけは

 広島市の自営業男性(45)は、3年ほど前から年下の会社員女性と付き合っている。「年齢も年齢だし、結婚するなら最後のチャンスかも」。そう思いながらもなかなか踏み切れない。

 男は稼いで女性をリードしないと―。「親世代の男性はそうしたはずだと考えてしまって。でも今の自分には『俺についてこい』と言える自信もないんです」  親から小売店を引き継いで働き、月収は約30万円。新型コロナウイルス禍で売り上げが落ち、先行きは不透明だ。彼女は穏やかな性格で、一緒に食事をしたり街を歩いたりすると気持ちが落ち着く。時折、道行く子どもを見て「かわいいね」と話してくる。「プロポーズで勝負をかけるべきじゃないか」と思うが、経済的な自信のなさがブレーキをかけてしまう。

ロスジェネ 仕事に追われ、恋は遠く

 6年前まで東京で働いていた。就職氷河期に社会へ出たロスジェネ世代(ロストジェネレーション)。勤めた会社はいわゆる「ブラック企業」で、薄給のまま終電まで働かされた。ささやかな楽しみは、深夜や休日に立ち飲み店を巡って客同士で語らうこと。語り口の朗らかさもあって、彼女は何人もできた。

 「でも、仕事が忙しくて恋愛は自然消滅の繰り返しで」。もっと稼げるようになってからと、結婚を急がなかったが、広島にUターンして本気で意識しだすと壁にぶつかった。婚活パーティーに参加しても、零細の自営業者は相手にされない。飲みに行っても、かつてほどもてなくなった。

 そんな中、飲食店で今の彼女と出会った。「結婚して子どもを授かる未来を捨てたくないけど…」。決心が付かないまま、「生涯未婚」の可能性が高まるとされる「50歳」が頭にちらつく。

50歳時未婚率 右肩上がり

 2020年の50歳時未婚率は、男性が25.7%、女性が16.4%で、いずれも過去最高―。国勢調査のデータを基にした数値で、かつては生涯未婚率と呼ばれた。1985年は男女ともに4%前後で、その後は右肩上がりが続く。国立社会保障・人口問題研究所(東京)の推計によると、40年には男性29.5%、女性18.7%に達するという。

 独身の理由はさまざまある。内閣府が20年度、理由の上位三つを尋ねて集計したところ、「適当な相手にまだ巡り合わないから」(50.5%)が最も多かった。続いて、「自由さや気楽さを失いたくない」(38.6%)、「経済的に余裕がない」(29.8%)だった。