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『ドント・ルック・アップ』は『ディープ・インパクト』と連続して観ると10倍面白い(当人比)【ネタバレなし】

2021年末〜2022年始の1週間の視聴時間がNetflix史上最高の1億5000万時間超えという超大ヒットとなった『ドント・ルック・アップ』。

レオナルド・ディカプリオにジェニファー・ローレンス、ケイト・ブランシェットにメリル・ストリープ、アリアナ・グランデにクリス・エバンス…というなんとも豪華なキャスト陣で話題を呼ぶのも当然ですね。

すでに、多くの人に観られていていますが、賛否両論あるようです。

でも、絶対に観て損しないですよ。この作品。

賛否の否側の意見としては、コメディなのに笑えないというものが多いようですが、それは直前に『ディープ・インパクト』を観ておくことで解消します。この映画、コメディに偽装しているだけですから。

この偽装が、『ディープ・インパクト』から立て続けに観ることによって薄まるんですね。遮光カーテンだったのが、レースのカーテンになってしまう。

この2作続けて視聴する方法は、老舗の映画SNS「cinemascape」で「るぱぱ」さんという方が推奨していたのを読んで知ったのですが、1+1が10になるくらい奇跡のマリアージュを生んでくれます。騙されたと思ってぜひお試し下さい。もちろん、『ディープ・インパクト』も、Netflixに入っています。

以下、ネタバレ無し(予告編の範囲内)で書きます。


『ディープ・インパクト』は、1998年のスピルバーグ製作の映画で、監督は『ペイ・フォワード』のミミ・レダーです。

以下にYouTubeに上がっていた予告編を貼りますが、ほとんどダイジェスト版なので未見の方はこの予告編はスルーした方がいいです。


ようは、地球を滅亡させるくらいの彗星が発見されたが、さあどうなる?という映画です。

同時期にほぼ同内容の『アルマゲドン』が公開されましたので、そっちとごっちゃになっている方もいらっしゃるかもしれません。

『アルマゲドン』の方は、ブルース・ウイルス主演で『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイが監督です。もうこれだけでわかってしまうように、ブルース・ウイルスの活躍を楽しむことを主眼とした映画なので、『ドント・ルック・アップ』とは関連させて観ない方がいいです。
元祖ヘルボーイことロン・パールマンのファンなら、なおさらですね(なぜかを書くとネタバレになる)。


『ディープ・インパクト』(1998年)と『ドント・ルック・アップ』(2021年)とは、物語の骨格は全く同じです。

地球を滅亡させるくらいの彗星が発見されたが、さあどうなる?

それだけです。

ところが、そのことによって、かえって、今という時代がよりはっきりと突きつけられるんですね。20年という遠いような近いような過去が強烈に現代を照射します(正確には1998から2021なので23年ですが)。


物語の骨子がまるで同じ二本を連続することで、『ドント・ルック・アップ』は、『ディープ・インパクト』のリメイクなんじゃないかと思えてきます。

リメイクだと思って見ると、『ドント・ルック・アップ』は10倍楽しい。

『ドント・ルック・アップ』を『ディープ・インパクト』のリメイクなのだと仮定してみると、その仮定は仮定を超えて、我々が今生きているのは『ディープ・インパクト』のリメイクが『ドント・ルック・アップ』になる世界線なんだというリアリティが、リアルそのものに感じられてきます。

昨今のアメリカ政治を揶揄やゆしたコメディの部分は、単なるギミックとして笑えるようになる。

揶揄やゆというのは、すでに起こったことに対してするものなので、何かを笑っている作品に共鳴している自分は、過去に囚われている時間の自分です。でも、ギミックで笑うのはコントの笑いと同じなので、囚われた笑いではありません。

『ディープ・インパクト』の米国大統領役はモーガン・フリーマンで、10年数ヶ月後のオバマ大統領の誕生を予祝したかのような配役です。そんな、未来先取り映画のリメイクに思えてくれば、もはや『ドント・ルック・アップ』を過去思考で観ているわけにはいかなくなります。


そして、同時に、映画に仮託されているものの違いが浮き彫りになります。

『ディープ・インパクト』(1998年)は、虚構に力があった時代の映画です。ヒーロー映画を観れば、ヒーローの気分が味わえました(『アルマゲドン』)。

実際には、超人的なヒーローなんて現実にはいないけれども、超人的なヒーローが出てこなくてもちょっとした希望を日々に持って帰る、そのための聖なる泉のような機能を映画が果たしてくれていた時代が、少し前までにはあったことを『ディープ・インパクト』は思い出させてくれます。

『ドント・ルック・アップ』(2021年)は、その逆です。我々は、束になってもかなわない、並の国家以上の力を持つ人々と同じ空の下に生きています。

世界の最富裕層2153人が、貧困層46億人よりも多くの財産を保有する時代です。財産に勝る力は無いのが現代社会ですから、我々一般人一人と超富裕者スーパーリッチ一人との力の差は、一般人とスーパーマンの力の差と同じようなものです。

スーパーマンは映画館を出ればその力を失いますが、スーパーリッチは場所に関係無く力を持っています。スーパーマンの映画では(アイアンマンやバットマンでも同じですが)、ヒーロー以外の役柄は主役ではありません。

その構造を現実社会にあてはめてみれば、スーパーリッチ以外は客観的にはモブとして生きているというのが、現代の社会です。

ヒーロー映画の端役だって、その役者の人生の中では主役です。でも、映画の中ではその役者がその役者の人生で主役であることは、何の意味も持ちません。

だから、極端な貧富の格差はつらいのです。現実がヒーロー映画と同じ構造になっちゃうんですから。

自己解放だの自己実現だのをしてもたかが知れている我々だからこそ、有名人や国家や強いブランドなどに自己を投影したり、フェスやデモで正義をスカッとジャパンしているわけです。

そんな現実を、アメリカが、人ごとではなく自分事として逃げずに描いたのが『ドント・ルック・アップ』(2021年)だと思います。そのことが、『ディープ・インパクト』と続けて観ることによって明確に見えてきます。

二本の物語としての構造がほぼ同じであることによって、『ドント・ルック・アップ』のコメディ要素は、上質のホラーテイストに窯変ようへんしていきます。

ぼーっとしてても誰か先生が教えてくれるチコちゃんの番組が成り立つのは、回答者がチコちゃんと並ぶことで子どもに見立てられる構造ゆえに許される甘えだったのだなとふいに思い至りました。
ガツンと思い知らされて、激辛料理で汗びっしょりになるような爽快さを、この映画で味わいました。

『ドント・ルック・アップ』、まるで『マトリックス』のレッドピル赤い薬を飲まされたかのように、観たあとには現実が、覚悟して対処する以外にない存在として眼前に立ち現れてくる、そんな体験を届けてくれると思います。

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