【HRMエキスパートの視点】第2回 人事制度を活かせるか?制度設計時に陥りがちな罠(後編)
CHROFYは、「人的資本」や「人的資本経営」に関する専門家たちのご協力のもと、人事・経営に役立つ情報を定期的にお届けしています。
【HRMエキスパートの視点】では、事業会社の人事部門における実務視点と、HRMコンサルタントの視点の両面の視点をお持ちの株式会社Trigger 代表取締役 安松 拓也氏から、「人的資本」や「人的資本経営」に関する業界の動向や見解などについて語っていただいています。
第二回は、前回に続いて、「人事制度を活かせるか?制度設計時に陥りがちな罠(後編)」。
後編では、「人事制度の価値を高めるために必要なマインド」とは?をテーマに、実例を交えながら真の人事制度をつくるポイントを教えていただきます。
基準の精微化に気持ちが向かってしまう心理
前回のコラム でご紹介しましたA社の事例や対話の過程を通じて得た問いーなぜ私たちは「基準の精緻化」に向かいがちなのか?
おそらく、作り手の深層心理として、人事制度を、「守るべきルール」という感覚で検討すると、その要件は「できるだけ例外を作らないこと」となり、ルールとしての完全性を追求するマインドに陥ります。しかし、いくら人材を要素分化して詳細に要件定義したとしても、そもそも人材(人間)は多様であり、人材が働く状況も多様であり、完璧に合致することなどありえません。
では、基準は無くて良いのか?あるいは基準はアバウトで良いのか?というと、そうとも言えません。制度には「守るべきルール」という側面は必ず存在し、そしてその有効性もあるからです。例えば人事評価の基準があってそれが守られることは、機会の公平性を担保したり、評価者の恣意性を薄めたりするためには有効です。
したがって私たちは、「制度ルール」という側面の必要性を理解しながらも、言い古された表現ではありますが、「制度はツール」(ある目的実現のための枠組み)であるという志向を持ち、「ルール」と「ツール」の間で、自分たちの立脚する立ち位置をきちんと認識する必要があるのではないでしょうか。
人事制度の価値を高めるために必要なマインド
昨今、この認識の重要性が改めて感じられる事例が多くなっているように思います。例えば従来の目標管理(MBO)に変わるパフォーマンスマネジメントの手法として注目されているOKR(Objectives & Key Result)や、No Rating(従業員のランク付けを行わない人事評価手法)は、「制度はツールゆえ、より合目的的にその使い方を工夫する」という志向の中から生まれてきたように感じられます。ここでいう“合目的的”とは、人材のパフォーマンスを真に高め、組織成果の創出と従業員のキャリア・市場価値をより高めていくことです。形ではなく実を取りにいくスタイル、とも見えます。
まずは、 「管理のためのルール」 から 「人材を生かす/パフォーマンスをあげるためのツール」に意識を転換する。そうすることで、組織・マネジメントにとって人事評価制度は、 「管理者として人材を正確に判定するためのモノサシ」 から 「支援者としてメンバーのパフォーマンスや力量を上げるための材料」に変わります。また、従業員にとっては、 「管理されるための箍(たが)/自分を縛るもの」 から「成果や能力向上など自身のパフォーマンスを立証するもの/自分の価値を提示するもの」に変わります。
制度設計のマインドセットが、モニタリング指標の見方も変える
そして、「ルール」と「ツール」、どちらのマインドに立脚するか?は、組織・人事に関する指標やデータの見方にも影響を与えます。つまり、ルールであれば「守られているか?」が問題となり、ツールであれば「どう使われているか?」が問題となります。このことは、昨今のトピックスである人的資本情報の開示に対する取り組み方にも影響を与えるはずです。
「いま自分たちは「ルール」と「ツール」、どちらのマインドに立脚して考えているのか?」
「現案はどちらの性格が強調されていて、それで良いのか?」
人事制度や各種施策・取り組みを検討している経営者の方や人事担当の方にあっては、このことを自問し、自分たちの立ち位置をきちんと意識しながら最終的なスタンスを判断していくことが、出来上がるものと効果・成果に重要な影響を与えるポイントの1つなのではないでしょうか。
人事制度をルールと考えるのかツールと捉えるのか。
皆さまの会社・組織ではどのように考えられますか?
CHROFYは、今後も、人事・経営に役立つ情報を定期的に発信していきますので、どうぞお楽しみに。
何か「人的資本」や「人的資本経営」について、不明点やお悩みをお持ちの方は、ぜひ、お気軽にご相談ください。
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