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【まとめ】感情から書く脚本術

マーダーミステリーの制作(実はちゃんと進めてます!)をするにあたって、感情の盛り上がりをどう作ればいいのだろうと疑問に思った。

ミステリーにおいて、いちばん盛り上がるのは謎解きの場面だ。プレイヤーたちは誰が犯人なのか投票をし、真相を待ちながらドキドキする。構造的に、感情の盛り上がりが用意されているといえるだろう。

ただ、それに加えて泣いたり、怒ったり、驚いたりさせるにはどうすればいいのだろう。いわゆる”エモい”シナリオにするには、どんな技工を施せばいいのだろう。

本書は「脚本」のハウツー本だが、すべての物語に通じるテクニックが網羅されている。自分なりの備忘録としてまとめてみよう。

1.感情は”言動”で示せ

泣いた、怒った、驚いたーー小説でそのように表現してしまうのは簡単だ。だが、映画やドラマなど映像メディアで、登場人物の感情を表現するのはとてもむずかしい。

「もう怒った! 許さないから!」
そんな説明セリフばかりのドラマを誰が見たいと思うだろうか。お昼のサスペンスドラマのように、なにも考えずに楽しみたいというなら別だが。

「〇〇の息子の某が、これこれの動機で殺したってこと!?」
わかりやすいのは利点だが、多くの人にとっては興ざめなセリフだろう。

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顔を真赤にした、怒鳴り声をあげた、拳を震わせたーー著者は類語辞典を持つことをオススメしている。同じ感情を表すにも、大事なのはバリエーションと説得力だ。キャラクターに合わせたユニークな行動やセリフで描写できれば、きっとそのシーンは魅力的になる。

2.平凡なシーンにするな

恋愛ドラマを見ていると時々、リアルだけどすごくつまらないシーンに遭遇することがある。

「今日、〇〇なことがあってねーー」
「ハハハ、ウケる」
「そうそう、それで……」

みたいな日本中で繰り返されていそうなやり取り。会話にリアリティをもたせたいのだろうが、本当に必要だろうか。それよりも、説明のためだけにあるセリフや、無意味に難しい単語を使って理路整然としゃべるような場面を削ったほうが、ずっとリアルになる。

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現実世界はひどく平凡で退屈だ。
だからこそ視聴者は、ユニークで刺激的なエッセンスを凝縮した物語を求めている。

面白い恋愛ドラマは、笑わせるシーンは笑わせてくるし、胸キュンさせたいシーンはきちんと狙って演出してくる。無意味に長尺で、しかも退屈なやり取りをしているようなら、もっと事件を起こしてみたほうがいい。

たとえば、拙作「勇者は殺されてしまった!」は、タイトルの通り勇者を殺した犯人を見つけるゲームだ。RPGの王道をいくためにあえて戦士や僧侶といった定番の役職をそろえたが、もうちょっと設定に含みをもたせても良かったかもしれない、と思う。

3.対立させろ

物語を動かす強力なエネルギーとなるのが人間関係だ。我々人類は、いつだって人間同士のことで思い悩んでいる。恋愛とか、友情とか、仕事上のトラブルとか。ドラマのなかにおいても、興味を持ってもらえるのは登場人物たちの関係図だ。

わかりやすいのはバディものだろう。最近だと、MIU404というドラマでは、破天荒で突っ走ってしまう綾野剛と、クールで落ち着いた星野源というコンビのかけあいが最高だった。

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性格が違うのはもっともわかりやすい例で、ほかにも立場や目的が相反する人たちの会話は面白い。本書で何度も登場する「羊たちの沈黙」を例にとると、囚人で天才的な頭脳を持ったハンニバル・レクターと、新人FBI捜査官のクラリスは素晴らしい対比だ。

ミステリーにおいては、犯人と探偵は相反する立場にいる。ただし、その上で探偵の中に対立をうまなければならない。たとえば、犯人をかばおうとする存在がいるとか、別の犯罪を企てているとか、同じ目的に向かっていないほうがいい。サブミッションの役割は、きっと対立を作り出し、お互いの関係性を探るというところが大きいのだろう。

4.感情を揺さぶれ

出来事を、起こった順番に並べていくのは簡単だ。それを取捨選択し、磨き上げ、オリジナリティというスパイスをかけてやるのが脚本家に求められる役割である。

視聴者の感情を揺さぶるには、いくつかテクニックがある。たとえばこのあと悪いことが起こると予感させて緊張感をあおるとか、まったく想像していなかった方向にストーリーを動かすとか、あるいはさんざん前フリをしておいてようやくゴールにたどりつくとか

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「100日後に死ぬワニ」がなぜあれほど世間を騒がせたのか。それは、彼が「100日後に死ぬ」ことがわかっていたからだ。そのタイトルなしに、いきなり最終回で死んでも、誰も心揺さぶられることはなかっただろう。

驚きはいつだって視聴者を喜ばせてくれる。多くのミステリーがこれほどまでに支持されているのも、常に新たな驚きを与えてくれるからだ。マーダーミステリーにおいては、犯人が結末を知ってしまっていることが多いので、犯人にもなにかしらわからないことがあるとよいのかなと思う。

めちゃめちゃ紆余曲折を経たあとに結ばれる二人、というのは恋愛モノの王道だ。手を変え品を変え、どうやって二人がくっつくのかを見守り続けるだけで、視聴者は楽しみを感じることができる

5.まとめ

本書には書ききれないくらいの細かいテクニックが詰まっている。これらの類型を頭に入れた上で、映画を見れば、きっと詰め込まれた技工の数々に驚くことだろう。

とりあえず、作中もっとも登場回数が多いであろう「羊たちの沈黙」と「北北西に進路を取れ」を見直してみようと思う。

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