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考えることの多い本は良い本だと思う―『ジョブ理論』

「ビジネス書」というジャンルは範囲が広い。個人的には「ビジネスに役立つ洞察を与えてくれる書物」のつもりでビジネス書という定義をしている。本書のオビには「21世紀のベスト・オブ・ビジネス書!」という派手なコピーが躍っているが、この定義に従えばベストかどうかはともかく良いビジネス書であると思う。

ただそれは本書の内容を鵜呑みにせよというわけではなく、議論のとっかかりにしていく土台として、ではある。

ジョブ理論については様々な人が引用している。自分も本書を読むまでは「顧客が解決したいことを雇用のアナロジーで捉えている」程度の認識だったのだが、読んでみると認識は一変した。ジョブ理論の根幹にあるのは、因果を捉えよという主張だ。

我々はついつい、顧客をセグメントに分けて分類し、分析しがちだ。たとえばこのSNSは20代男性に人気、あのブランドは50代女性に人気、のように。しかし、クリステンセン教授はきっぱりと「相関は因果ではない」と述べる。データを見れば何か分かるような気がするが、それは本質ではないのだという。

いや、頭では分かっている。しかし、因果は人間の手には余る。証明できないのだ。だからこそ学問の世界ではRCTのような手法を用いて相関をもとに因果を掴もうとする。しかし、人間はいつしか分かりやすい相関ばかり見ようとする。ゆえにWebの世界では安易にABテストに走ってしまう。

ある状況下で私がなぜその商品を、あるいは別の何かを選んだのかを企業がわかっていなければ、私についてのデータも、私に似た人たちのデータも、私について新しいイノベーションを生み出すときの役には立たない。

『ジョブ理論』14P

では、クリステンセン教授が提唱するジョブとは何だろうか。基本定義が55Pに書かれている。

  • ジョブとは、特定の状況で人あるいは人の集まりが追求する進歩である

  • 成功するイノベーションは、顧客の成し遂げたい進歩を可能にし、困難を解消し、満たされていない念願を成就する。また、それまでは物足りない解決策しかなかったジョブ、あるいは解決策が存在しなかったジョブを片付ける

  • ジョブは機能面だけでとらえることはできない。社会的および感情的側面も重要であり、こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある

  • ジョブは日々の生活のなかで発生するので、その文脈を説明する「状況」が定義の中心に来る。イノベーションを生むのに不可欠な構成要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でも新しいテクノロジーでもトレンドでもなく、「状況」である

  • 片付けるべきジョブは、継続し反復するものである

つまりジョブは状況に応じて発生するもので、単にニーズを雇用のアナロジーで説明したものではない。

この説明で思い出したのが無印良品だ。生活になんとなく「いい感じ」のものを揃えて気持ちよくなりたい、という感情的な進歩にフォーカスした商品開発がされている。そうしようと思えば普通は様々な店を回らなければならないが、無印に行けばだいたい揃う。努力しなくて良い、というのが無印の強みであり、解決しているジョブであろう。

では、noteが解決しているジョブは何だろうかと考える。ここに私の答えを書ければ良いのだが、内部情報に触れざるをえないので残念だが書けない。とはいえ働いていれば、あるいは働いていなくても働く意志があれば自分の会社が提供している/したい商品がどんなジョブを解決しているか考えることは良い訓練になるだろう。


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