BUMP25周年記念ライブレポート
定刻を15分ほど過ぎたあたり、大きな拍手とともにメンバーが入場してくるのを、後ろから二番目の席から眺めていた。正確に言うと遠すぎるステージに立つメンバーはほとんど見えなくて、両袖に設置されたモニターを通じてそれぞれの持ち場へと向かう4人を見ていた。何度申し込んでもなかなか当選せず、半ばあきらめつつルーティンのように申し込んだ最後のチャンスで奇跡的に当選したチケットだったが、一人での参加でライブ前のワクワク感を共有する相手がいないことや、コロナ禍で声が出せないことも相まって、ライブの客席にいるというよりは謎の巨大な空間で映像を眺めているような気持ちだった。
そんなちょっとした疎外感も、1曲目の『アカシア』の前奏が流れた瞬間に砕かれる。言葉なんかなくても、真っ暗闇の中でも、目の前の「君」と目を見つめ合うだけで世界のどこかで輝く光の唄を、あるいは記憶を掘り返してみると相棒と言える「君」なんかいないし、きっとここにいるリスナーの多くも同じなんだろうけど、それぞれの胸の中に「君」の幻想を映し出す魔法の唄を、リアルタイムで、巨大なスピーカーが発する大音量で聴ける幸せを噛みしめる。そういう魔法を生み出した、多分誰よりも多感で繊細な藤くんが今ここで、一人ひとりのリスナーと対峙するように、逃げも隠れもせずに堂々と歌っている。その事実だけで胸がいっぱいになる。<足跡は僕の方が多い 間違いなく僕の凄いところ>と歌いながら自分の胸に手を当てる藤くんがモニターに抜かれる。ああ藤くん、君はなんて凄いんだ。
一方で、いつものライブとはなんとなく様子が違うことも感じる。藤くんはなんだか歌いにくそうにしているし、他のメンバーもどことなく演奏が硬いというか、微妙なちぐはぐさを感じてしまう。それはまるで久しぶりに会う友人と会ったときみたいで、随分と長い間全く重ならなかった生活の重みを実感して、今お互いがどんなことを思って、どんなものが好きで、どんな未来を描いているのかを探っているくすぐったさを感じた。頑張れ藤くん、頑張れBUMPと、心の中で応援してしまう。
そのくすぐったさはMCでより顕著に現れる。普段はガンガンMCを回すCHAMAがさっきから一言も喋らず、藤くんがメンバーを紹介している。藤くんのMCは歌詞と同じように、心の内をさらけ出すような語り方だ。このライブは藤くんの独壇場になるんだなとなんとなく悟る。前回のライブは巨大なスクリーンに色とりどりのキラキラした映像が映し出され、銀テープや火柱といった派手な演出もあるエンタテイメント要素強めのライブだっただけに、今回のストイックに曲を演奏しようとする姿勢は懐かしさを感じる一方、久しぶりに会って印象が変わった友人と何を話せばよいか分からなくなるような寂しさも感じた。
5曲目『宇宙飛行士への手紙』は、まさに変わっていくBUMPをリアルタイムで感じた作品だ。当時のBUMPはゴリゴリのギターロックからシンセによるサウンドメイクが印象的な作品が増えつつある過渡期で、メロディラインや歌詞も達観した落ち着きのようなものが加わりつつあった。高校生だった僕には正直それは物足りなくて、以前ほど熱心にBUMPの曲を聴かなくなってしまった時期だった。この曲の良さに気づいたのは大学を卒業したあたりで、他人との関係性は常にかわっていくこと、取り戻せなくなった過去があること、それが今と未来を支えてくれることを実感してからである。そういった類の記憶や感情が、ヒロのレーザー光線みたいなギターソロとともに体中を駆け巡る。ちなみに藤くんは両手の人差し指を角に見立ててトリケラトプスのまねっこをしていた。かわいい。
ライブ中盤、アコギを手にした藤くんが美しいアルペジオを零すように爪弾く。藤くんのアルペジオはよく研がれた刀みたいに鋭いのに枯れた喉を絞るみたいに震えている。そんな声みたいな音が紡がれて段々と知っているメロディに変わっていく。それはまるでこの世界に音楽が生まれ落ちる瞬間を見ているみたいで、ライブに来ないと味わえない至福の時間だと思う。そのメロディは会場へと向かう新幹線の中、演奏してくれたら嬉しいなと思いながら聴いていた『銀河鉄道』の前奏だった。絶妙な間を取りながら語りかけるように、新しい街へと向かう人のどうしようもない孤独を歌う。子供には怖がられ、シートを倒して眠りに付くことも許されなくて、それでも居場所を作って前に進もうとすることを、小さく、確かに肯定するような語り口を、みんなでしーんとなって聴いていた。コロナで声は出せないが、それ以上に明確にしーんとなっていって、この瞬間だけはリスナーの一人ひとりが真にひとりぼっちだったような気がして、同時に一人でこのライブに来たことや、一人で故郷を離れて生きていることとか、そういったものを大丈夫だよと言われた気がした。
そこからはもう圧巻だった。『乗車権』ではステージに掲げられたBUMPのエンブレムとともに、長い時間をかけて洗練されていったテクニックによるスリリングな演奏が、望みと覚悟をいつの間にか見失った僕らの心臓へ銃口を突きつける。右腕の赤く光るPIXMOBを挙げ、存在を主張する勇気がようやく出てくる。この演出、普段のライブでは後ろの方でじっとしながら聴いている僕も、手を挙げる理由になって良い演出だなと思う一方、ここまでお膳立てしてもらわないと手を挙げられない自分がちょっと照れくさくなったりもして苦笑いしてしまう。四人の演奏はいつのまにか、孤独と不安を抱える僕らの存在を力強く肯定する普段通りのものになっていた。恐る恐る挙げた右手がみんなと同じように光って、ようやく心からライブに参加できたような気がした。長いこと会ってなくて、印象も変わったけど、ちゃんと話したら昔のまんまじゃん、なんて話を旧友とするような、あるいは迷子同士、お互いの現在地を見せ合いっこするような安心感があった。
ライブ終盤で演奏された『オンリーロンリーグローリー』ではPIXMOBが光らなかった。こんなもの無くても大丈夫でしょ、と言われているようだったし、派手な演出がなくても輝けるロックバンドの底力を見せつけられたような気持ちにもなった。一心不乱に楽器を鳴らすことで生まれる疾走感あふれるグルーヴから生まれる生命の鼓動はリスナーの魂と共鳴して、会場全体が一つの大きなうねりとなってそれぞれの心になだれ込み、明日以降の生活を前へと突き動かすエネルギーをもらったような気がした。
25周年記念のライブであったが、本当に祝福されたのは、BUMPの音楽に触れ、迷子の真っ只中で必死にもがく我々なのではないだろうか。「へなちょこバンド」を自称する彼らの音楽はまっすぐで逞しくて、同時にリスナーそれぞれが自由に解釈して、それぞれが求める支え方に呼応するような柔軟さを持っている。相変わらず社会は冷酷で、一人ひとりは素敵な生き物なのに集まるとロクなことがなくて、それでもなんとかこの世界で生き抜いてきて、これからも生きようとする我々に、ぱっと見の姿は変えながらも昔と同じやり方で勇気を与え、生命を肯定してくれる音楽が存在することを実感した、素晴らしい夜だった。
BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11
2022年7月2日[DAY 1]
【本編】
01. アカシア
02. Hello,world!
03. 天体観測
04. なないろ
05. 宇宙飛行士への手紙
06. arrows
07. Small world
08. 銀河鉄道
09. リトルブレイバー
10. 乗車権
11. Aurora
12. ray
13. オンリーロンリーグローリー
14. メーデー
【アンコール】
15. クロノスタシス
16. 新曲(木漏れ日と一緒に)
17. BUMP OF CHICKENのテーマ
ご覧いただきありがとうございました!