蝶夏【ショートショート&童話】

主にショートショートとたまに童話を書いてご紹介しています。書き始めたばかりですが、つか…

蝶夏【ショートショート&童話】

主にショートショートとたまに童話を書いてご紹介しています。書き始めたばかりですが、つかの間お楽しみいただけると幸いです。

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ショートショート『彼女メシと共感覚』

俺はある日曜の午前中、奇妙なことが自分の身に起こり、そのことについて図書館で調べるうちに、1時間もたたずに頭を抱え始めていた。ネットで調べた心当たりがある単語「共感覚」について、なかなか飲み込めないまま、もっと詳しい内容がないか専門書をペラペラめくっていたのだ。 「共感覚」とは、ある1つの刺激に対して、通常の感覚だけでなく、異なる種類の感覚も自動的に生じる主観的な知覚現象らしい。音を聞くと色が見えたり、文字や数字に色を感じる「色字」なんかもある。 「五感以外に、感情や単語

    • ショートショート『僕の無くしたもの』

      気がつくと、僕は白い砂浜の前に立っていた。てっきり僕は、お約束の大きな川が流れていて、向こう岸から知り合いが手を振っているシーンが見られるかと思ったら、そうでもないようだ。目の前に広がっているのは多分海で、波の音が聞こえてくるのと、湿気を含む冷たい潮風が僕の頬を撫でていく。空は、僕の今の心境を映すように鈍色の雲が流れていく。 自分の姿を見ると、白装束ではなく、普段着ているジーンズと白いロゴT、ランニングシューズだった。これからどうしたものかと頭に手を置きながら周囲を見渡すと、

      • 童話『てんとう虫のてん』

        てんとう虫のてんは、てんとう虫ですが、兄弟たちにはある背中の点がありません。「てんとう虫は、点があるものなのに。」と、てんとう虫父さんからよくいわれていました。てんとう虫母さんも、「どうしてこんなことになってしまったんだろう」と、自分を責め、心を痛め、あまり外に出掛けることがなくなりました。

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        • ショートショート『雪待ち』

           今年もあいつが好きな料理を作って、なんとはなしに待っている。特に決まった約束があるわけではないのだがー。  何か外で気配がすると思い、玄関のドアを開けてみた。この家は、村からかなり離れたところで、広い草原の中に建てているから、隣人が訪ねてくることはほとんどない。冬になると今日のように雪が降り、辺り一面真っ白な世界が広がり、空を見上げると鈍色の雲が広がっているだけだった。  ある日、玄関ドアをノックする音がかすかに聞こえた気がした。僕は誰が来たのかを確かめもせず、ドアを開けた

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        ショートショート『彼女メシと共感覚』

          ショートショート『ATMトロフィー』

           「あなた、退職記念のATMトロフィーはどうするの?」 妻からそう聞かれ、今年の春、長年勤めていた会社を定年退職したので、会社から記念としてトロフィーをもらえるという話を思い出した。退職してからも私的な挨拶回りがあったからすっかり忘れていた。『ATMトロフィー』は最近できたサービスで、AIがその人の人生を分析し設計した形を、3Dプリンターで立体化するというシステムで、トロフィーはコンビニにあるATMで手軽に作れるとのこと。  トロフィーは一般的に、試合などで優勝者に授与さ

          ショートショート『ATMトロフィー』