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「色気」について考える 其ノ一 色気について

みなさん、こんにちは。

銀座 蔦屋書店で日本文化の担当をしている佐藤昇一です。

このnoteは、20年近く歌舞伎の舞台に立っていた、変わった経歴の本屋さんが書いています。みなさんには、めずらしいものをみつけたと思って、お付き合いいただけると、うれしいです。

前回までのまとめ

自己紹介のつもりが「色気」について考えることになった話 ①の続きです。

歌舞伎の世界から足を洗って少し経った頃(本屋さんになるもっと前)、美容師さん向けの媒体「cocoa paper」で連載をはじめることになりました。はたして、歌舞伎俳優だった(しかも梨園の出身でもない)だけの私の言葉が、美容師さんに伝わるのか?連載の第1回は自分の修業時代の話をしつつ、「色気」をテーマに選び、自己紹介をしてみようと決めました。

さらに、落語の三題噺(お客さんの出した3つの題を、即座に一席の落語にまとめて演じること)にならって、「色気」の意味である6種類全部にふれてみる。無駄にハードルを高くして、「色気について」というお題でコラムを書くことに。

さて私は、はたしてそのハードルを越えることができたでしょうか?

以下、コラムです。

色気辞書

「色気」の意味、6通りです!

ちょうちょ遊べやとまれ其の一タイトル

当時の連載のタイトル、かわいい。

色気について

本誌で来年からコラムを連載するにあたっての自己紹介をお願いします。

そんなご依頼を受けてあらためて自分を振り返った時、「色気」という言葉が浮かびました。

私は20年ほど歌舞伎俳優として修業を積んでおりました。梨園の生まれではなく、また歌舞伎のことを何も知らずに飛び込んだため、しばらくは目指す方向もわからぬままもがくような、苦しい日々が続きました。それでも逃げ出さずにいられたのは、こんな自分に真剣に向き合ってくれた師匠や先輩方にこたえたいという気持ち、そして彼らのあふれる「色気」ゆえです。80歳を過ぎた先生のすっくと立ったその姿の美しさ、危険な立ち回リを軽々とこなし喝采を受ける先輩、満場の観客を魅了する主役の大きな背中。今思い出しても胸が熱くなります。

修業のはじまり

入門した当時の自分は、ただ愚直に稽古をくりかえすのみでした。たとえば、踊れと言われれば意味を考えずにひたすら踊るという具合です。そこには、うまく踊ってやろうという気持ちはないのです。何が上手な踊リなのか、そもそもわからないのですから。「色気」も何もありません。

色気づく頃

修業をはじめて10年を過ぎた頃、少しずつ物事が見えてきます。こうするときれいに見えるというような、工夫する面白さを覚えはじめ、だんだん自信もついてきます。そのうち、他人に上手だと思われたいと思い始めます。いわゆる「色気」づくわけです。まるで女の子の目を気にして、鏡を見るたびに髪をいじる中学生、そんな時期です。

スランプを越えて

でも、高くなった鼻はへし折られます。なまじ努力してきた自負があるため、とてもつらい時です。私の場合は、自分のしていることの意味を掘リ下げることで鬱憤を晴らしました。今まで当然だと思っていた芝居にまつわる事がら、セリフや音楽、かつら、衣装のひとつひとつを、先輩や専門家に質問し文猷や視聴覚資料にあたる。気がつくと気晴らしだったことを忘れてすっかりその面白さに夢中になり、その領域は芝居を越えて服飾や結髪まで広がりました。

歌舞伎とその背景にある文化に対して、「色気」が出たというわけです。

そして、現在は

歌舞伎の世界から足を洗った現在は、修行時代に思う存分ためこんだ知識をわかりやすくするために大学で勉強しつつ、講演や執筆を通して日本の伝統文化を伝える活動を続けています。はじめはさっぱりわからなかった日本の文化。その灰色に見えた世界が、今では「色気」のあざやかな景色に映るようになった、その瞬間の喜びを伝えたい。そう思ったからです。

来年からこの場をお借リして、私の「色気」が働くヒト、モノやコトをご紹介させていただくことになりました。読者の皆様には、「色気」のある温かい目でお読みいただければ幸いです。

コラムは以上です。

色気について考えてみる

この回にかぎり、自己紹介もかねて「色気」について書くことにしたつもりでした。しかし、編集部の方がこの文章を気に入ってくれたようで、次回からも引き続き、「色気」をテーマにお話しさせていただくことに決まりました。以降、「cocoa paper」が休刊するまで1年間数か月、5回にわたって「色気」について考え続けました。

久しぶりに読み返してみて、やはり「色気」は日本文化を理解するために、重要なキーワードだと思いました。たまたまではありますが、一生のテーマに出会ってしまった。そんな気がしてなりません。

さて、次回も「cocoa paper」での連載記事を再掲載します。お題は「忍ぶれど‥‥‥」です。どのような「色気」について語っているか、お時間のあるときにお読みくださるとうれしいです。

サポートいただけましたら、日頃の感謝のしるしとして、奥さんにはのりしおのポテチ、息子にはキャラメルポップコーンを送りたいと思います!