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Cafe Memory.

ママは、私の右手をぎゅっと握って離さない。

降りしきる雨に私をさらけ出さないようにと必死で守ってくれているけれど、ママが守っている私は、傘よりもアスファルトに近い。すれ違う大人たちが作り出す水沫に、何度も瞬いた。

どうして私は、こんな日にカフェに行くのだろう。

扉をくぐると、5つのカウンター席と4人掛けのテーブル席が2つ。

「ほら、ここに座ろう。」

ママがテーブル席に掛けるように促したところで、カランコロンと音が鳴る。私たちを先に降ろして駐車場を探していたパパが扉の向こうからひょっこりと顔を出して、私を見つけてニコリと笑った。

「オムライスにする?それとも、カルボナーラ?」

あなたが注文しなかった方をママが頼むから、なんて続けてくれるもんだから、私の迷いはすり替わる。ママは、どっちの方が好きなんだろう。

――――――――――

「おまたせしました、オムライスです。」

その声に、少しばかり背中を叩かれた気がした。そっと手を挙げて、目の前に配膳されたオムライスを眺める。金色に輝くまあるいお月様の上に、ケチャップでお店の名前が書かれていた。

スプーンの裏側で、そっとお月様をなぞる。赤く染まっていく様を見たパパが、「皆既月食みたいだね」とつぶやいた。いまいちピンと来なかったけれど、それがおかしくて笑った。

スプーンに5杯ほどのオムライスをよそって、取り皿に移し替える。それから少し崩して、チキンライスのグリーンピースだけを三日月に戻した。あの頃は嫌いだったグリーンピース、今はもう嫌いじゃないの。

――――――――――

「帰りは、ケーキを買って帰ろうね。わたしが大好きな、イチゴのショートケーキ。」

ほっぺまで届きそうな白と赤のリップは、今日の幸せを表す芸術作品であってほしいな。そう思いながら見つめた瞳は、どこまでも透き通っていた。

パパが会計を済ませている間に、傘立てから濡れた傘を引き抜く。帰り道は傘を叩く雨粒が大きくなった気がして、ちょっとだけげんなりした。

あれ?
どうして私は、こんな日にカフェに来たのだろう。

ブラウスの右肩が、雨に濡れていた。

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