【守る】
ラジオのFM放送で、女優の木村多江さんの朗読する番組
「Sound Library~世界にひとつだけの本~」 がある。
主人公で旅行会社勤務の月原加奈子役で木村さんが話すドラマである。
木村多江さんの喋りが何とも心地良い。
毎週物語は違っていて、少し前に“春の卓球”というのがあった。
私も卓球をやっているので引き込まれて聴いた。
月原加奈子は
転勤の決まった錦織支店長に残業が終わった後食事をごちそうになり
その後卓球の試合を申し込まれる
実は以前に、社内の卓球大会で錦織支店長は優勝していたが、
月原さんが決勝で支店長に花を持たせていたという
それが支店長にはばれていて、最後にガチでということになった
神田川添いの雑居ビルの2階にある卓球場
金曜日の夜遅く、いい大人が汗を飛び散らしてラリーの応酬
周りで遊んでいた大学生達が集まってくる
錦織さんはネバリがすごい
どんな球も拾って打ち返す
やがて私がミスをして 自滅
なんだか実生活さながらの様だった
負けた 私は今度こそ本当に負けた
大学生が大きな拍手をくれる
炭酸水を飲みながらお互いを称えあう
月原
「卓球部だったんですか?」
汗を拭いながら尋ねると
錦織支店長
「私、小学校の時いじめに遭いましてね
休み時間、昼休み、放課後も一人だったんです
で 卓球の壁打ちをですね やりまして、とことんやりまして
で まあ上手くなったんです
ただ昔から攻めるのは上手くなくて防戦一方
私の人生は常にそうです
攻めたことなんて一度もないんです」
そう答えた錦織さんに私は言った
「充分錦織さんは強いです
攻めるって私も苦手です
小さい頃攻めるのをやめると『やるきがない』みたいに
言われたことがあって驚いたのを覚えています
そっか 生きるって攻めてないといけないのかな、しんどいなって
でも大人になって解りました
“守るほうが大事、大切な人を、自分を、守るのが一番”
錦織さんは笑顔になった
職場では一度も見せたことのない、いい笑顔だった
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