Clubhouseが嫌い

みなさんこんにちは。長南です。
2021年2月に音声SNSサービスのClubhouseが日本で大きな話題を呼んでいます。報道によると政治家や自治体が情報発信のツールとして使いだしたことが報じられ、 Twitter には利用をはじめるための「招待」を求める書き込みがあふれています。

日本在住のユーザーが利用できるようになってから、このような過熱状態になっているのですが、率直に言って個人的にこのClubhouseは嫌いです。感覚的にいうならばdislikeよりもhate気味の「積極的に嫌い」な感覚を持っています。

FOMOドリブンのマーケティング

TechCrunchによると、このClubhouseは2020年4月に話題となってスタートアップ界隈で注目をあつめたということで記事にもなっていますが、インフルエンサー(TechCrunchの記事ではテック系著名人)が参加しているということ、利用開始までにウェイトリスト(順番待ち)に入れられFOMO(Fear Of Missing Out, 取り残されることへの恐怖)を煽った施策を打っています。

スタートアップの初期の段階では、テック系のCEOのお友達がサービスに参加しているのは不思議じゃないし、テストフライト(おためしアプリ)の発行も無尽蔵に行うことが出来ないので単なる偶然に思えなくもないかもしれませんが、アプリのアイコンを見るとさすがに「あざとい」と感じる人もいるのではないでしょうか。

2021年2月9日のITMediaの記事によると、アプリのアイコンがギタリストのBomani X氏からシンガーソングライターのAxel Mansoor氏に変更された旨が報じられています。

アプリのアイコンなんで自由にデザインしていいものではありますが、アプリの名前や機能を連想させるデザインのものではなく、大物ミュージシャンの肖像を使うというのは異例というか斬新です。アイコン(Icon)という言葉は本来「像、肖像、偶像、聖像」という意味を持っていますが、ミュージシャンの写真を本来の意味でのアイコンとして使っています。これは相当あざといといわざるをえません。事前に使用許諾を取るくらいでしょうから、絶対アプリの偶像化を狙っています(蛇足ながら「アイドル」(idol)という語は「偶像」という意味がより強くあります)。

FOMOドリブンのマーケティングは今も健在なのか、2021年2月現在、既存のユーザーからの「招待」がないとClubhouseを使い始めることはできない状態になっています。

カルトが人を集める時使いそうな人間の心の弱点をついていると言えるかもしれません。こういうのが好きな人もいるのでしょうけれども、私は眉を濡らして警戒したくなる性分です。占いや宗教関連の人がころっと釣られている例も散見されるので(ミイラ取りがミイラになっている状態ですね)、相当うまくできているんだろうなという印象もあります。

話題の大きさに比べて杜撰にみえる運営体制

 そんな、ものすごく素敵でキラキラしたものにみえがちなClubhouseですが、運営元のWebサイトを訪問した方はどれだけいらっしゃるでしょうか?

まだ始まったばかりだからしょうがないかとおもわせるシンプルなサイトですが、アプリのテストフライト自体は2020年5月には行われていたので、TechCranchの記事から9か月経った現在でこのデザイン、Android版アプリがリリースされていない状況(うまく動いているかどうかは別にして、あの「COCOA」ですらAndroid版が出ているのに)、蛇足ですが2020年11月2日修正版のプライバシーポリシーでは"PERSONAL DATA WE COLLECT(収集する個人情報)"のところで"Internet Activity Data(インターネット利用データ)"が重複して2回記載されているというお粗末さが気になるところです。

技術的な面ではユーザーには(アプリ外での悪用を戒める意図があると思われますが)会話の録音を取らないように求める一方で運営側では、会話データが録音され(不正使用が行われたか判断するためと一応の記載はされています)、場合によっては中国当局に漏洩する恐れがあると指摘されています。

Engadetの記事のオリジナルの情報源のStanford Internet Observetoryでは通信内容をキャプチャして解析した結果も掲載されており、ルーム名やユーザー属性はこのサービスのバックエンドAgora(この企業が上海の企業なので中国当局への漏洩について指摘されています)に暗号化なしで送信されていること、参加者間での暗号化(E2EE)がなされている可能性がきわめて低いことが指摘されています。

またアプリの挙動については日本のエンジニアも独自に考察を行っています。

こうしてみると技術面を含めた運営体制はユーザーが思っているよりも甘いところが多いのではないかと推察されるところです。

2021-02-18 追記

その後、先掲したStanford Internet Observetoryの記事を翻訳し、中国企業(Agora)に音声データが送られているという報道や、情報の裏付けをとることが難しい性質からデマの温床になりやすいという指摘がなされています(報じたのがNEWSポストセブンというのがまたなんとも...)。

また、Stanford Internet Observetoryの記事に掲載されたClubhouseのステートメント内で「72時間以内に対応する」としていたことも大きく報じられましたが、Clubhouseはこの件についてステートメントを出していません。このような状況からか日本でのGoogle検索トレンドは急速にピークアウトする状況になっています。

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情報発信者になったときの課題

そんなClubhouseですが、仲間内で雑談するくらいであれば(既存の通話サービスがたくさんあるのでそれを使えば良いとは思うのですが)それほど目くじらをたてるようなところではないと思われますが、情報発信者すなわち「ルーム」を主宰するとなるとやっかいな面が出てきます。そもそもClubhouseはFOMO戦略を打ち立てていて(まんまと乗せられる日本人は愚かだとは思いますが)その結果

・ iOS を使っている
・ Clubhouse アプリをインストールして
・ すでに誰かに招待を受けている

という条件を満たした人しか聴衆(あるいは登壇者)になりえません。日本は iOSユーザーが多い国だとはいえ、相当ハードルが高いのはいうまでもありません。Twitterで「〇〇についてのClubhouseルーム作りました!聞きにきてね」などと告知しても現段階ではノイズでしかありません。それが許されるのは Elon Mask くらいのものです(Youtubeにライブストリームされるわ、当人は暗号通貨のDogeCoin買いを煽るわで霹靂しているわけですが)。

情報を発信するにあたってはペルソナ(想定読者・想定聴衆者)というものをある程度想定してコンテンツをつくるものです。

Clubhouseでいうと現状「iOS使ってる(ある程度お金を持っている)人で新しもの好き」ということになるわけですが、情報商材でも売りつける場所になりそうな予感もします(もちろんそういったことは禁止されてはいるのですが、どこまでガバナンスが効くのかは正直分かりません。自分の身を自分で守るという観点からすると、参加した会話はすべて録音しておきたいくらいです)。

あるいは自分のフォロワーということになるわけですが、FOMOに踊らされて招待を求めている人をターゲットに詐欺が横行している状況や、電話帳ベースの招待を受けるために電話番号を教えてしまう(場合によってはアカの他人に!)といったリスクをフォロワーに負ってもらうのは双方幸せなことだとは思いません。

あなたを慕ってくれてている人が100人(1000人、100万人でもいいのですが)いたとして、あなたの情報発信を視聴するのに危険な思いをさせたりリスクの高い行動を強いて結果的に不幸な思いをする人が1人でも出るのは本意ではないはずです。

クローズに見えるところでの音声コミュニケーション

私はこのアプリを使っていないのでよくわからないのですが、ルームではログが流れないとか録音が禁止されているということで、タガがはずれた会話が繰り広げられ、先のElon MaskのようにYoutubeライブストリーミングで中継されたり芸能人の内輪話が芸能メディアのネタにされるということが起こっています。

コミュニティガイドラインを見ると、会話の内容の秘密が保持されるとは書いていないし、運営により一時録音されることが明記されています。また、一般的なSNSと同様の禁止事項が設定されており、TwitterやFacebookと同じ程度にはパブリック(公的)な場所であると認識しないといけません。見た目の雰囲気にまどわされてハメを外すのはそれなりに恥ずかしいことと知るべきです。

時を同じくすることと「時間泥棒」のキワドイ差

そしてこれは2020年〜21年に特化したことですが、コロナ感染症の流行により社会活動が制限され、結果的にネット上で情報が発信されることが増えてきました。Twitter界隈ではツイキャスの告知がたくさんなされるところですが、雨後のたけのこ状態で私が時間を割いて視聴する価値のあるものはとても少ないのが現状です。いうなれば玉石混交(ただしほとんど石)という状況です。

そのなかであえて「同じ時間を過ごす」ということは想像以上に難しいのはいうまでもありません。Netflixなどの動画定額視聴サービス、Youtube Live、ツイキャスに加えてClubhouseを追っかけるのはとても現実的ではありません。どうせ有名人の発言であればClubhouseのポリシー関係なく記事になるだろうし、それ以外のコンテンツは相当の義理でもないかぎり視聴する必要はないし、その時間をもっと別の有意義なことに使いたいというのがホンネです。

この時代、プライベートな時間を奪っていくものには警戒が必要です。ただでさえ全ての人間は時間の経過には勝てない(タロットカード死神の草刈り鎌のイメージです)わけですから、そこは吟味する必要があります。時間が入った財布の紐が緩むことは今年の運勢展望で書いた「心を麻痺」するものだと考えています。

開かれたところで文章を公表するということ

このnoteで私はオカルトやデマについての記事を書いていますが、私の本業はITエンジニアです。実現できているかどうかは別として「ハッカー」でありたいと常に思っています。この「ハッカー」という言葉は誤解を生みやすい語ですが、Eric S. Raymond の「ハッカーになろう(How To Become A Hacker)」という文章がよくその実態を表しています。

この中であげられている「ハッカー精神」を抜粋すると

・ 母語できちんと文が書けるようになること(わたしが知っている最高の連中を含め、ハッカーの驚くほど多くは物書きとしても有能です)。
・ 本当の瞑想的な訓練を受けること。ハッカーたちの永遠のお気に入りは禅です(重要な点として、信仰に入ったりいまの宗教を捨てたりしなくても、禅の恩恵は受けられるのです)。他の様式もいけるかもしれませんが、得体の知れないことを信じ込ませるようなものは避けましょう。
・ 音楽を分析的に聞く耳を鍛えること。一風変わった音楽がわかるようになること。なにか楽器を上手に演奏したり、歌が歌えるようになること。

といったことがあげられています。このnoteや雑誌の記事は「母語できちんと文が書ける」ことを示す活動の一環ととらえています。

逆に「してはいけないこと」としてこのようなことが挙げられています。

・ つまらないおおげさな ID やハンドルを使わない。
・ Usenet (あるいは他の場所でも)で、フレームとは関わり合いにならない。
・ 「サイバーパンク」を名乗ったりしないこと。そしてそう名乗っているヤツを相手にして時間を無駄にしてもいけません。
・ 誤字脱字だらけで文法もでたらめな投稿やメールはしないこと。

誤字脱字は人様に言えたものではありませんが(少しは反省しています)、「つまらないおおげさな ID」をつけることはやめて、本名で活動しています。Twitterなんかで「大魔導師ナントカ」などと名乗っている人は本気でバカだと思っていまし、匿名掲示板でヤンチャなことやるのも同様です。「Qアノン」の件でも垣間見ることができましたが、どうやら人間は匿名な場所や、より閉鎖的な環境になると、とたんにモラルが崩れてしまう傾向があるようです。Clubhouseとサイバーパンクにどれだけ類似性があるのかは分かりませんが、つまらない人の相手をして時間を無駄にするのは御免被りたいところです。

ここで私がどれだけ文章を書いたところで、影響力なんてタカが知れているところではありますが、知名度がないからこそ多くの人が閲覧できる場所や本に文章を書くということに価値があると考えています。

はじめから檜舞台に立とう

このインターネットの世界の中で「価値が高いもの」というのは何でしょうか? さまざまな考え方があると思いますが「Google検索セントラル」にはこのような記述があります。

興味深く有益なサイトにする
人を引きつける有益なコンテンツを作成すれば、このガイドで取り上げている他のどの要因よりもウェブサイトに影響を与える可能性があります。ユーザーは閲覧したときに良いコンテンツだと感じると、他のユーザーに知らせたいと思うものです。その際、ブログ投稿、ソーシャル メディア サービス、メール、フォーラムなどの手段が使われます。

クチコミによる自然な評判はユーザーと Google の両方に対してサイトの評価を高めるのに役立ちますが、質の高いコンテンツなしにそうした評判が生まれることはめったにありません。

有益なコンテンツを作ることが何よりのSEOであるとGoogle自らが述べています。また形式についても

テキストを使用する: サイト コンテンツやページタイトルを、画像、動画、Flash アニメーションなど、Google が容易に認識できないテキスト以外の形式だけで掲載することはしないでください。サイト名を示すためにグラフィックを使用する場合は、ページテキストにもその名前を含めます。

と、テキストを使用することが推奨されています。サーチエンジンがサイトをクロールし、そこに良質なコンテンツを準備しておくことが重要だということです。サーチエンジンのクローラーが到達できるような開かれた場所に配置するのも重要です。

そういったことを考えるとコンテンツはより多くの人がアクセスできる場所にテキストで置くのが望ましいということになります。これは「ハッカー精神」の「母語できちんと文が書けるようになること」というところにも通じます。

幸いにして現在はコンテンツの作り手は多くの人がアクセスする「檜舞台」でコンテンツを公開する環境が整っています(noteであったりYoutubeであったり)。まったく実績がない人でもコンテンツを作り公開することができるというのは恵まれている状況だとも感じます。

Clubhouseについては本当かどうかは分かりませんが一部で「文字でのコミュニケーションが苦手な人の支持を集めている」という見解があるようですが、これが本当だとするとなおさらClubhouseには近づきたくありません。ルームを主宰してどれだけ会話が盛り上がったとしても、コンテンツとして価値が残らないものに時間を費やし「ハッカー精神」に逆行する行動にどれだけの意味があるのでしょうか。

仮にClubhouseが文字によるコミュニケーションが苦手な人が集まる場所だというのであれば、私のなかでの重要度はさらに低いものになりますし、あざといFOMO戦略なんかには引っかからない強いマインドを維持していきたいと考えています。

コロナウィルスの影響で私達の行動に制約がある状況ですが、なおさら強い心を持って情熱を燃やしていくことが重要なのではないでしょうか。


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