#215 クローン病患者における腸管組織の線維化を病原性の大腸菌が促進!
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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回も、室長が参加してきた第96日本細菌学会総会にて出会った興味深い研究例をご紹介します!本日は、クローン病患者において病原性大腸菌が腸管の狭窄を促進するという研究についてお話します。
炎症性腸疾患の一種であるクローン病は、慢性炎症を伴う消化器疾患です。日本においては、約50000人の方がクローン病に罹患しているとされています。慢性炎症は組織における線維化を引き起こしますが、線維化が進むと腸管の機能に影響を与えることから重要な関心事です。
クローン病においても、腸管の線維化と閉塞を引き起こすことが明らかとなっており、約40%の患者には回腸末端に狭窄が起ることが明らかとなっております。線維化した狭窄に内科的治療は有効ではないことから、外科的な切除が一般的には行われています。しかし、狭窄切除後も再発率が高いことから、狭窄の新規治療法が求められます。
そこで、本研究では、クローン病患者の腸内環境に存在する接着侵入性大腸菌(AIEC)に着目して、クローン病患者において狭窄が起る仕組みを明らかにしていきます。腸内細菌が組織の線維化に関わることを示した興味深い世界を覗いてみましょう!
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接着侵入性大腸菌
接着侵入性大腸菌は、炎症性腸疾患や大腸がんと関係があるとして注目されています。接着侵入性大腸菌(Adherent Invasive E. coli)は、腸管上皮細胞に発現しているタンパク質へ接着した後、組織内に侵入する性質があることからこの名前がついています。
この細菌の興味深い性質はこれだけではなく、慶應義塾大学らの共同研究では、成長に使用する=資化する栄養の嗜好性を炭水化物からアミノ酸のセリンへ変化させることで、腸管におけるニッチの獲得をすることが示されています1)。
先行研究では、接着侵入性大腸菌の存在が大腸炎を増悪させることも示唆されており、炎症性腸疾患との密接な関係が考えられています。
炎症を誘発したモデルマウスにおいてAIECは定着し腸管へ線維化を引き起こす
本研究では、まず健康なSPF野生型C57BL/6マウスに対して、抗生物質(ストレプトマイシン)を添加後、接着侵入性大腸菌とヒトに共生する大腸菌を投与した結果、いずれも腸管への定着は起こりませんでした。
そこで、デキストラン硫酸ナトリウムおよびサルモネラ菌を健康なマウスに投与するとこで、炎症を引き起こしました。サルモネラ菌の投与によっては、サルモネラ菌は定着しませんでした。炎症を引き起こしたマウスに対して、接着侵入性大腸菌と通常の大腸菌を投与した結果、接着侵入性大腸菌においてのみ腸管への定着が確認されました。
さらに、腸管組織におけるサイトカインや線維化関連因子であるCol2a2、Tgfb1の発現量が増加することが確認され、粘膜下層におけるコラーゲンの沈着も確認されました。このことから、炎症を惹起したマウスに接着侵入性大腸菌を投与することで、線維化をすることが実験から確認されました。
詳細な解析により、接着侵入性大腸菌は腸管上皮細胞におけるIL-33受容体ST2の発現量を増加し、誘導には接着侵入性大腸菌のフラジェリンが重要であることが示唆されました。
ここから、クローン病における腸管の線維化と狭窄を予防する創薬ターゲットとして、接着侵入性大腸菌が考えられます。腸内環境における組織の病変に腸内細菌が関係していることを明らかにした事例をご紹介しました。
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参考文献
Imai, Jin et al. “Flagellin-mediated activation of IL-33-ST2 signaling by a pathobiont promotes intestinal fibrosis.” Mucosal immunology vol. 12,3 (2019): 632-643. doi:10.1038/s41385-019-0138-4
1) 腸内細菌の代謝嗜好性を標的にした次世代栄養療法実現の可能性
-食事由来アミノ酸制御で炎症腸管での潜在的病原細菌の増殖を抑制-, 慶應義塾大学, プレスリリース, 2019年11月7日, Access: 20230331, URL:
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2019/11/7/191107-1.pdf
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