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短歌×和菓子のコラボ「短歌のわがし」ができるまで

4月末日、品川の日本茶カフェでお茶をいただいた。日本茶カフェに入るのは初めだったけど、居心地が良くて長居してしまった。
お店は築100年余の日本家屋で、昭和の初めごろは理髪店だったそう。2年ほど前にリノベして、当時の大きな鏡や柱、装飾をそのまま残して日本茶カフェにしたのだそう。

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この佇まいの中で短歌の展示がしてみたいと思った。
漆喰の壁に一行だけの短歌があって、それを眺めながらお茶を啜れるようなほっとする短歌展。


店内はその時間空いていて、スタッフの和菓子職人の方と少しお話しできた。
その職人さんは、小説や映画からインスピレーションを受けてオリジナルの和菓子を創作すると仰っていた。ご両親が国語の先生だったとも伺って、言葉を大事にされているのが話し言葉の柔らかさにも表れていた。

そんな流れから自分が短歌を作ることと、ここで短歌の展示をしてみたいことを伝えた。言葉を大事にされている方なら、もしかしたら短歌の展示のほかにも【短歌から着想したオリジナル和菓子】を作っていただけるかもしれないと思った。


後日、プレゼン資料を作ってオーナーのいらっしゃる日に改めてお店へ伺った。
短歌で何かさせてほしい、というよく解らない突然のお願いにも関わらず快諾してくださり、面白がってもくださった。最初にしたいと思っていた展示のほかに「よろしければコラボなんてどうですか?」と提案してくださった。

そんな話から【短歌×和菓子】のコラボが始まった。

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コラボが決まってから、お店を巻き込むからには自己満足、自己完結で終わらないものにしたかったので、まずは告知のためのポスターやフライヤーの制作から進めた。

以前、下北沢で催した短歌展に訪廊してくださったデザイナーの方を思い出して、その方に今回のコラボの写真・ポスター・ロゴ等の告知媒体のトータルデザインをご依頼した。

そのデザイナーさんは、自分が短歌を始めた頃に知った歌人でもある方で、詠まれる歌も手がけていた本の表紙や装丁も好きなものが多く、よく画像保存していた。短歌の時間の切り取り方だったり、静謐な景を言葉にする感覚が近い気がして、きっとこのコラボの意図をすんなり飲み込んでいただけると思った。6月、都内のカフェにお呼び立てして終始わくわくしながら打ち合わせをさせていただいた。

和菓子の打ち合わせもデザインと並行して進めさせていただいた。
職人さんとは製作に入る前に、自分の過去に作った短歌を70首ほどまとめてお渡しした。その中から和菓子にしてみたい歌を好みで選んでいただいた。

この歌を和菓子にしてください、と自分の作りたいものを形にしてもらうよりも、職人さんが頭の中で描いたイメージを見てみたかったし、その方が自由で広がりがあって面白いと思った。
70首→3首に絞り、さらにそこから職人さんのアイデアスケッチを基に実際に和菓子にするものを形にしていく作業になった。

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最終的に選んだのはこの歌。

見て見てとモンシロチョウを見せにくる 愛の八画目にとまらせて

月刊うたらばで採っていただいた、手前味噌ながら好きな歌。
愛の八画目、「心」のヒュッと釣り針みたいな尖ったところ。

職人さんとは『「愛」というワードからの着想で形がハートだと安直すぎないか?』とか、味はもちろん、品のいいピンクを出すための分量、コストなどなど、あれこれと意見を交わしつつ試行錯誤していった。

特に苦心したのが上にとまるちょうちょの材料と配置で、あまり存在感を出しすぎず、羽を休めて佇むようにとまっているように見せるのが難しかった。初めは砂糖菓子で作ってもらったものの歌のイメージに合わず、最終的にピンクの羊羹にして透明感を出すことでちょうどいい存在感になった。


自分自身の和菓子に関しての知識や不勉強を恥じつつ、用語を聞いたり調べながら勉強させていただいた。(「うきしま」って?「どうみょうじ」って何ですか?みたいな……)

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菓銘は「てふてふ」になった。

和菓子職人さんのアイデアで、蝶々の古語の語感、ひらがなのぽってりした丸みや柔らかさと、愛称のようなとっつきやすさがこのコラボの親しみやすさになれる名前だと思った。


餡に角切りりんご、シナモン、レモンを加えて、桜、ストロベリーパウダーを練りこんだ生地で包んだういろう。可愛いフォルムに出来上がった。
材料も白砂糖・着色料・添加物を使わず、国産品のみを使用して、体にやさしいものにこだわって誰にでも薦められる和菓子にしていただいた。
歌のイメージも丁寧に汲み取ってくださり、何度も試作を重ねて仕立ててくださった職人さんには本当に感謝です。

「てふてふ」が出来てから【短歌のわがし】というコラボの名前も決まっていった。


コラボの名前も決まり、デザイナーさんにはロゴをいくつかのパターンで作っていただいた。

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いただいたロゴはどれも素敵なものばかりで、悩んだ末に【デザインとして耐久性のあるもの=流行りのデザインではなく長く使えるもの】、【手作りの和菓子→手仕事→手書きのフォルムに近いもの、機械的な直線や曲線でないもの】を選ばせていただいた。
最終的に選んだものは明朝体の【短歌】から「てふてふ」の形の【の】がポコッと生まれているもの。ちゃんと見てようやく気付くくらいの【の】のフォルムが本当に絶妙で気に入っている。

コラボのコンセプトでもある【短歌から生まれた和菓子】をロゴ自身がよく表してくれている気がした。

ロゴはテイクアウト用のシールにも使わせていただいた。


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短歌のわがしをご注文のお客さまには、モチーフになった歌のポストカードをお土産にお渡ししていて、紙の手触りや質感にはこだわれるだけこだわってみた。ただ、選んだのが麻地やキャンバス地に近い凹凸のある紙で、印刷が難しいらしく印刷屋さんでは扱っておらず自分で刷っている。

和菓子は食べたら無くなるけれど、いつか引き出しの奥から出てきたポストカードに、あれ美味しかったな、またあそこに行きたいなとか、思い出せる何かが付随してくれたら嬉しい。

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ポスター画像SNS告知用


「てふてふ」は8月のひと月販売して、お召し上がりもお土産もご好評のうちに終売することができた。真夏の暑い中、雨の中足を運んでくださったお客様には本当に感謝です。
店頭のポスターを見て買ってくださった方も多く、中には食べた感想を一筆箋に短歌に留めてくださった方もいらした。

思いがけなく出会った和菓子と短歌に少しでも素敵な時間を過ごしてくださっていたら嬉しいです。
ネットでも歌集でもなく、こういう面白いかたちで短歌と出会って、歌がこの先の日々の端々で思い出されていたら嬉しい。


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1月の宮中行事の歌会始(うたかいはじめ)の題から和菓子を作る【御題菓子(おだいがし)】というものあるらしく、短歌と和菓子はきっと相性が良い。

特に和菓子は季節によっていろいろな顔を見せるので、時季ごとに違った【短歌のわがし】を今後も作っていけたら良いなと思う。
当初は3つの和菓子を同時に販売する予定だったのだけど、これから時季ごとに販売を続けていく中で【短歌のわがし】のリピーターさんも出来たら嬉しいし、長期的な展開にすることでこのコラボがより周知されて、地域に浸透していけば良いなという楽しみもある。


以前、職人さんが「和菓子をお客さまにお出しするときは我が子を旅立たせるような気持ちになります」と仰っていたことがあった。
自分は短歌を作るのがかなり遅筆で、歌人を名乗ってしまえるほど歌を作れない。一首の歌に相当な時間をかけるので、一つの歌を孕ませている時間が長いからか、ようやく産み落とした歌が愛おしく思える気持ちは分かる気がした。


数組入れば満席になってしまう店内なので、お客さまが沢山いらして賑やかになることもありがたいけれど、街道を眺めながら、茶器の音を聞きながら、短歌に少し想像をめぐらせていただけるような、一見のお客だった自分が「こういう時間を過ごしたい」と思ったような、ほっとする時間を過ごしていただけたらこの上ないです。


現在、ありがたいことに第2弾を製作中で、先日試作を終えたばかりの和菓子の商品撮影をデザイナーさんにしていただき、ポスターも作っていただいた。11月上旬の販売に向けて動いています。

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短歌のわがし、素敵な方々にお力添えいただいて東京・南品川の日本茶カフェ「茶箱(ちゃばこ)」さんで不定期ですが販売しています。
品川にお越しの際はぜひお立ち寄りを。
最新情報は下のサイト等から発信しています。

▼茶箱 Facebook
https://www.facebook.com/cha8ko/

▼茶箱 Instagram
https://instagram.com/cha8ko?utm_medium=copy_link

▼薬膳和菓子工房ちゃま(和菓子職人さんInstagram)
https://www.instagram.com/chiyamawagashi/

【茶箱 紹介ページ】

▼お茶カフェ紹介サイト New Title
https://newtitle.tokyo/tea_place/chabako/

▼ことりっぷ
https://co-trip.jp/article/392478/

茶箱(ちゃばこ)
東京都品川区南品川2-11-5
毎週金・土・日曜日 11:00〜18:00(現在時短営業中)
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