「感染拡大防止」は「一撃講和」と同じ【緊急事態宣言延長の愚】

衣笠祥雄の『水は岩をも砕く』(ロング新書)にこんな一節がある。

頑固にやって成功する場合と、自分を信じて頑固にやってもなかなか結果に結びつかない場合と、頑張り方には二通りあると思う。私はそのどちらも経験した。しかし、その違いはそれほど難しくないと思う。
たとえば、どれだけ努力しても成功を収められない場合がある。いくらやっても結果が出ない場合でも、自分というものを頑固に信じる。最後まで貫く。考え抜いたこの練習で正しいのだと信じ、貫く。
しかし、それでもどうしても結果が出ない場合、最初の方法論をいつまでも信じても意味がない。それは途中で判断しないといけない。練習の《方法論》そのものが違うのかもしれないと思うことだ。無暗に続けているならば、練習は惰性の練習になってしまう。やがて、自分の頑固を貫く意味などなくなってしまい、すべては無駄な努力になってしまう。だから、方法論を改めて探すしかなくなる。
理想よりも結果の方が何十倍も重要である。結果の出ない自分の理想は捨てるべきだ。少なくとも何かが不足しているのだと判断できないと、理想を掲げただけで終わってしまう。

菅義偉首相らが緊急事態宣言を延長して目指すという「感染拡大防止」はまさに「結果の出ない自分の理想」だ。確かにそうなればみんなハッピーだが残念ながら拡がったウィルスは目に見えないし、色もついていない。
感染状況がどう推移するかは人間の知恵や行動力を超えた話であり、感染リスク低減のための対策は個人や企業でとれるが、国や地域全体として「感染拡大防止」を図るのはもはや不可能だ。
そもそも「感染拡大防止」が目的の緊急事態宣言なら日付で切るのはなく「こうなれば解除する」という数字を示し、到達までは続けるのが常道。しかし、既に書いた通り、感染状況なんて数字を捏造する以外、人間の思う通りに動かないし、いつその基準に到達できるか誰にも分からない。従って「感染拡大防止」を目指す措置、指標は無意味といえる。
しかも5月9日の日曜日に政府分科会の尾身会長はNHKの番組で「(宣言解除は)《ステージ2》が目安」と発言した。ならば宣言発出前に「緊急事態宣言は日付で期限を区切らず《ステージ2》になるまで続けてもらいたい」と具申しなかったのか。分科会の存在理由を会長自ら事実上否定している。

感染者を減らすという達成を見通せない目標で医療体制の逼迫解消を目指すのではなく、人間の知恵や行動力で可能な方策、すなわち感染者が増えても逼迫しない医療体制、システムの構築こそが将来の新たな危機に備える意味でも必要。

実現不可能な「感染拡大防止」のために効果のない政策を続け、ワクチン接種は遅々たる歩み。余計な規制や障壁は取り払い、態勢を整えてワクチン接種を加速することが目下の急務なのは明らかにもかかわらず。
ワクチンの開発は1年前から始まったのにものが完成し、日本に来たらどう速やかに配分のうえ、国民に接種するか、実際にワクチンが到着するまで何のプランも練ってなかったのか。菅義偉氏はこの間ずっと内閣官房長官もしくは内閣総理大臣として国政の枢機に参画していた。閣僚、首相として失格である。

賛否は別としてオリンピックをやりたいなら「日本国民は全員ワクチンを接種している」状況を作ることが海外へ向けた1番のアピール。逆にオリンピック開会式までに全日本国民に接種できていなければどこの国も怖くて選手派遣を躊躇するだろう。米英をはじめとする他の先進国は「感染拡大防止」は不可能と割り切り、人間の知恵や行動力で進められるワクチン接種にエネルギーと人材を注いでいる。来る側は🆗で迎える側の人間に未接種がいるなんて事態はあり得ない。

また昨年来の問題だが、国や地方公共団体が私権の制限に繋がりうる事柄に関して基本原則がないまま政令などをベースとした「要請」で既成事実を積み上げているのは極めて危険なこと。
憲法改正により緊急事態条項を定めるのは危険と説く向きを時折目にするが、仮に憲法改正で私権の制限が可能なケースを定めようとするなら、国会での議論・採決、国民投票と問題点を洗い出し、最終的に可否を問う段階がある。そしてもし通った場合、「ここまでは許される、これ以上は許されない」という一定の規範性が備わる。しかし、現在の枠組みでは「要請」という名の圧力と相互監視で伸縮自在にやれる。しかも事後検証、救済も望めない。どちらがより「危険」かは自明だろう。

いわゆる太平洋戦争中、日本は戦局が悪くなった時に「一撃講和」を目論んだ。つまりいずれかの場所で「決戦」を行って敵にダメイジを与え、その後に講和を申し出ようという考え方だ。しかし、これは「結果の出ない自分の理想」だった。「決戦」をどこでやるかすら定められず、現場の人間は勇敢に戦ったが各所で玉砕するばかり。結局犠牲者が増える一方で最後は国じゅうを焼き払われる形で悲惨な敗戦を迎えた。
現在の「感染拡大防止」を掲げた緊急事態宣言はまさに「一撃講和」と重なる。その結末は医療体制整備の失敗による犠牲者の増加と「ワクチン敗戦」だ。

的外れの政策で国民を疲弊させる菅義偉内閣は総辞職が妥当である。しないなら野党は「休業か、ワクチンか」を争点に総選挙を求める時。

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