東京2020オリンピックに想う【歓喜とため息④〔終〕】

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喜びと悔しさ:男女ゴルフ

霞ヶ関カンツリークラブで行われた男女ゴルフは猛暑の中だったが棄権者は皆無、集中力を欠いて大叩きする選手も殆どおらず、国や地域を背負った世界のトッププロの戦いに賭ける情熱が伝わった。惜しむらくは他の多くの競技・種目と同様に無観客だったこと。もしギャラリーが入場できていたら、日本有数の厳格なメンバークラブである霞ヶ関カンツリークラブにたくさんのひとが触れ、ゴルフコースの奥深さの一端を感じるまたとない機会となったはず。

女子(6,648ヤード/パー71)はネリー・コルダがセカンドラウンドの62(-9)でリードを築くとそのまま逃げ切り金メダルに輝いた。銀メダルは2021年日本女子ツアーでオリンピック前までに5勝をあげていた稲見萌寧選手がメジャー覇者のリディア・コとのプレーオフを制して獲得した。稲見選手は最終ラウンドで抜群のショットを武器に猛追、18番ホールのボギーでトップに並ぶことはできなかったが65(-6)をマーク、銀メダルマッチに進んだ。また畑岡奈紗選手はショット、パットのかみ合いがいまひとつながら粘り、9位タイとなった。

一方、男子(7,447ヤード)は4ラウンドとも概ね安定してスコアを伸ばしたザンダー・シャウフェレが金メダルに輝いた。マスターズ覇者の松山英樹選手はトップと1打差で最終ラウンドを迎えたが度々バーディチャンスを逃す苦しい展開。18番ホールでフェアウェイバンカーから見事ピン側につけ、もしバーディパットを沈めていれば銅メダルだったが外してしまい、結局7人による銅メダルマッチで敗退した。展開次第では金メダルもあり得たので正直失望を禁じ得ない。このオリンピックで個人的に最も悔しい瞬間だった。

逆に稲見萌寧選手は米女子ツアーのトップ選手を向こうに回して臆せず戦い、日本女子ツアーのレヴェルの高さを世界に示してくれた。

メダルどころか予選落ちレヴェルの開閉会式

オリンピックは民間のイヴェントであり、全ての選手は「個人」だが、一方で強い公共性も有する。
この「公」と「私」の要素を上手に映し出すことが開閉会式においては重要。
しかし開会式はゲーム、漫画が象徴する「私の時間」ばかり。「公の時間」「歴史の時間」「世界に問う思想やメッセイジ」が全くない、暗くて内向きなものだった。

とどめの一撃は聖火の最終点火者に大坂なおみ女史を選んだこと。「多様性」の名のもとに「個」の権化を起用した。思想的掘り下げが皆無のまやかしは何の共感も呼ばない。「候補者」で受けてもらえたひとが他にいなかったのだろうが。

唯一救われた瞬間は最終点火の前に長嶋茂雄氏が王貞治氏、松井秀喜氏と一緒に聖火を運んだシーン。これはたくさんの視聴者の感動を呼び、テレビ局も救った。日本のメディアは自国都市開催五輪に多額の放映権料を払っており、従って開会式以外の競技の中継も見てもらい、広告主が納得する数字を出す必要がある。そのためには不祥事続きで傷ついた五輪、感染症渦で荒んだひとの気持ち、とりわけテレビ世代の心を癒す要素が必要だが、それを生み出せるのはミスターくらい。大坂なおみには絶対不可能。1996年アトランタ五輪のモハメド・アリを思い出す名場面だった。最後ミスターの眼はマスクの奥で笑っていたし。

閉会式は東京物語-オリンピックマーチ-上を向いて歩こう-波の盆…開会式よりはいくらかマシだった。
しかし合間に流れた第9のリミックスと岡本知高のオリンピック賛歌(しかもチャイナへの配慮でギリシャ語)はダサい。
国旗入場の際は映画「東京物語」、舞のBGMは「波の盆」。ともに多様な家族の悲劇(しかも笠智衆出演)。「誰も悪くない。誰もが生きている」とのメッセイジ。しかし中継で殆ど説明がなかったから意図を感じたひとは少なかったと思う。

次回ホスト都市へのバトンタッチのパートではパリの映像が展開。率直に言って演出のセンスはパリの圧勝。変な小細工に走らず、自都市のいいものをスピーディに展開した。まあ、世界の皆が知っている都市で文化遺産も豊富だからこそだが。そして締めはもちろん空軍のアクロバット。フランスは国家的スポーツイヴェントで必ずこれを出す。ル・マン24時間レースも同様。

終わりに

お粗末な開閉会式はともかく、日本代表選手の皆さんは①に記したように全日1つ以上のメダルを獲得し、いわばアスリートの特権である「結果によって疑問を吹き飛ばす」ことにある程度成功した。心から感謝と賞賛の気持ちを表したい。オリンピックが終わり、競技者として一線を退くひと、更なる高みを目指すひと、捲土重来を期すひと…様々だがこの後の人生に幸あれと強く願う。またポテンシャルの高いアスリートを「広く、着実に、長く」後押しできる仕組みの確立が求められる。

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