贅沢なCDたち【レーグナーと朝比奈隆】

LP時代「世界一贅沢なレコード」というキャッチコピーで売り出された音源があった。ハインツ・レーグナー指揮、ベルリン放送交響楽団(旧東側)のシューベルト:交響曲第9(8)番。現在は廉価盤CDで入手可能なアイテム。

何が「贅沢」かといえば当時黎明期だった日本コロムビアのPCMデジタル録音の優秀性をアピールするため、LP1枚へのいわゆる詰め込みカッティングをせず、LP1面につき1つの楽章とし、2枚組にしたのだ。

1970年代後半、レーグナーとベルリン放送交響楽団のコンビは澄んだ響きに少しヴェールのかかった質感、静かな個所のゾクッとする陰影、淀みなくリズムのキレる進行で日本のレコードマニアにファンがいた。このシューベルトも基本は正攻法だが瞬間的な強弱や孤独の漂う音色を映し出す技が冴え、CDで聴いても深い感銘を覚える。

個人的にリアルタイムの記憶で「贅沢なCD」と思ったのはこちら。

1990年2月5日、オーチャードホールでのライヴ録音。35分強の協奏曲だけのフルアルバムで初出時3,000円以上した。面白い演奏だとは聞きつつも「これは買えない(買うまい)」。約20年後に上記リンクの通り、タワーレコードの企画で再プレスされた際に半額以下まで値下がりしたのでようやく購入に至った。

最盛期の新日本フィルのシャープでがっしりしたアンサンブルに朝比奈隆のガッツあふれる強靭な音楽性がうまく乗って、雄渾壮大にして要所はきちんと磨かれた演奏に結実した。2人のソリストは響きの荒波に動じず、しなやかな音色を保ち、きめ細かく脇の締まったメリハリが聴ける。落穂拾い的好盤。値段は下がっても1曲でお腹いっぱいの贅沢さを保つ。

↓本演奏の映像(撮影監督・実相寺昭雄)↓


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