ジャズ音痴の想うチック・コリア【現代人の心理と呼吸できたひと】

半歩先を読む天才


始めに断ると筆者は全くのジャズ音痴であり、どちらかといえばジャズ嫌いだ。
それは音楽としてのジャズ自体が嫌いというより、日々接する、見解が耳目に入るジャズ好きにろくな人間が少ないことからきている。彼らの殆どは高慢で知識のない人間をバカにするばかり。
根本的に日本人にジャズを奏でる、受容するセンスは元来あまりないと思うのだが、それに無自覚で分かっている感全開で振舞う。従ってジャズの本や番組とは距離を置いている。

そんな筆者があえて大音楽家チック・コリアについて綴るのはもちろん存在の大きさ、拓いた要素の多様性と奥行きに感銘を受けたから。

簡単に言えば時流の半歩先を読んで拓くカメレオン的天才で時代を作ったひと。未来調のカラフルさ、ロングトラック、ジャンルをまたぐ応用力など多彩な引き出しを駆使。ジャズ、フュージョン、エレクトロニカ、ラテン、クラシックなどのエッセンスを取り込む能力に長け、自己流に再構築して「ことのわかる(と自身をみなしている)聴衆」を捉え続けた。
さわりを掴みたいひとは下記のベストアルバムが好都合。共演者との探り合いから「新しさ」を印象付ける巧みな戦略も覗える。

ジャズピアノを「延命」させた功労者だが…

単独アルバムで1枚ならこちらを挙げる。

本盤(1972年録音)を好きなひとは多いと思う。現代人の内なる襞に響く音彩。私見ではGary Burtonとのデュオが最も充実感を覚える。孤独の底にある光、現代人の抱く単純にして入り組んだ心理を音楽にしえた数少ない実例。
余談だが20世紀後半のクラシックの作曲家はありとあらゆる手法や論理を編み出したが結局ここを音楽にできず、聴き手を捕まえられなかった。

2008年に35周年記念のライヴアルバムを制作、グラミー賞を受賞した。

ジャズピアノ(キーボード)の世界が21世紀に入ってなお、ある程度輝いている(ように見える)のはこのひとやキース・ジャレットの功績。
ただ2人に罪はないがいわゆるジャズ評論家、とりわけ日本の当該人種の多くは1970年代以降の一時期、2人の動きに合わせて踊り、持ち上げるばかりで言論を陳腐化させた。
チック・コリアが世を去り、キース・ジャレットも一線を退いたいま、日本の音楽メディアはジャズにどう向き合うのか、問われる段階にきている。

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