東京2020オリンピックに想う【歓喜とため息②】

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究極の有言実行:卓球・水谷隼選手

別格のボールタッチ、七色のサービス、強烈なパーソナリティで日本の卓球界を牽引してきた水谷隼選手は2020年8月刊行の著書の最終章にこう記した。

「東京オリンピックで金メダルを獲得し、パイオニアとしての歩みにピリオドを打つ」

リオ大会で男子シングルス(銅〔卓球日本男子史上初〕)、男子団体(銀〔同〕)の2つのメダルを獲得して以降、東京までの5年間は水谷隼選手にとって長く苦しい歳月だった。
張本智和選手などの若手の台頭、眼の不調、競技外のトラブルと逆風が相次ぎ、結局感染症禍による大会中止もあってシングルス代表は逃し、協会推薦で混合ダブルス(東京2020オリンピックから採用で伊藤美誠選手とのペア)と男子団体のメンバーに選ばれた。

卓越した技術に加えて持ち前の反発力で幾多の修羅場を潜り抜けた水谷隼選手は混合ダブルスの初戦勝利後のインタビューで「(自身を代表に選んだことを)後悔させない」と言い切った。
そして混合ダブルスで金メダル。男子団体の銅メダルにも貢献し、大会後に現役引退を表明した。
10代から海外でもまれて世界トップクラスに上り詰め、栄光、挫折、苦悩の全てを味わった第一人者は鮮やかな有言実行を演じた。

混合ダブルスの準々決勝ドイツ戦は最終第7ゲームで2-9とポイントをリードされたが、そこから水谷隼選手が大胆にプレースタイルを変えて、追いすがり、更にマッチポイントを複数回握られるところまでいったが、最後は振り切る奇跡的勝利。
決勝のチャイナ戦は先に2ゲームを連取されたが、伊藤美誠選手が相手の男子選手のボールを粘り強く拾いながら流れを引き寄せ、3ゲーム連取で逆転。第6ゲームはチャイナの巻き返しにあったが第7ゲームをきっちりものにして新種目の初代金メダルペアとなった。水谷、伊藤両選手のコンビネーションはお互いの浮き沈みをうまく補い合い、それぞれが自らの考えで局面を打開して、ペアの勝利に繋げる次元の高い一体感だった。
東京2020オリンピックの個人的MVPはこの2人だ。


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