【プレリリースレビュー】「外山雄三生誕90年記念自作自演集」with大阪交響楽団(キングインターナショナル)
作曲家、指揮者として60年以上の芸歴を持つ日本クラシック界の重鎮、外山雄三(1931年5月10日-)。
1960年、敗戦から15年後にNHK交響楽団が挙行した世界一周演奏旅行の殆どの公演の指揮を岩城宏之(1932-2006)と担い、成功に導いた。しかも外山はアンコール用の楽曲として「管弦楽のためのラプソディ」を書き上げ、「ソーラン節」「黒田節」「八木節」などの民謡を織り込んだカラフルで鮮烈なリズムの弾ける作品は各国の聴衆を沸かせた。
30歳を前に作曲、指揮の両面で基盤を固めた外山は以来、交響詩「まつら」、ヴァイオリン協奏曲第1番(1963年尾高賞受賞)、チェロ協奏曲第1番(ロストロポーヴィチからの委嘱)などの作品を送り出し、高い評価を受けてきた。
例えばバレエ組曲「幽玄」(1965)からの2曲はマリス・ヤンソンスがオスロ・フィルハーモニー管弦楽団と録音した音楽世界巡り風アルバム「ワールド・アンコール」で「日本代表」に選ばれた。なおヤンソンスはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の夏のコンサート「ヴァルトビューネ」に招かれた際もこの曲を取り上げている。
レスピーギ辺りと繋がる鳴らしの巧さ、プロコフィエフやショスタコーヴィチからの影響を感じるほろ苦い質感、日本の民謡素材を投影する技法が組み合わされた外山の作品はオーケストラの面白さを端的に味わえる魅力を持つ。そこにはもちろん指揮者としての「現場目線」が反映されている点も見逃せない。
NHK交響楽団から正指揮者に叙されるなど数々の要職を歴任した外山が近年関係を深めたのが1980年創立の大阪交響楽団で2016年4月~2020年4月までミュージックアドヴァイザーを務め、現在は名誉指揮者。
在任中、外山は比較的新しいオーケストラの培ってきた自由な気風、進取の精神を認める一方、基本レパートリーの演奏水準向上の必要性を説き、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキーの交響曲をシリーズで演奏し、鍛え上げた。ベートーヴェン、チャイコフスキーはライヴ録音がCD化もされている。
↓筆者によるミニレビュー↓
そしてライヴ録音シリーズ第3弾として自作自演集が5月12日にリリース。
本アルバムの目玉はバレエ音楽「お夏、清十郎」からパ・ド・ドゥと「交響曲」(2018)。
「お夏、清十郎」は東京シティ・バレエ団を率いていた石田種生の振り付けによるバレエで1975年に初演されたが、その後スコアが行方不明になっていた作品。2018年に石田邸でスコアが発見されたのを受けて、外山自ら「パ・ド・ドゥ」を選び、2019年11月21日の大阪交響楽団第234回定期演奏会で蘇演した。オリジナルの尺八をフルートが代奏するなど一部の邦楽器を置き換えている。澄んだ柔らかい旋律の裏に仄かなエロスの漂う音楽はゾクッとする美しさ。もし出版されればアンコール用に重宝されそう。
「交響曲」は大阪交響楽団からの委嘱作品で2019年2月28日の第226回定期演奏会が世界初演だった。約18分の短い作品だがプロコフィエフの交響曲第6番との連続性を感じる乾いた叙情性が浮かぶ強靭で緊密な作品。弦楽器、管楽器、打楽器それぞれに「見せ場」があるのは外山流「教育的配慮」か。
↓2020年10月17日に新日本フィルの演奏会で再演された↓
また1964年に書かれた「沖縄民謡によるラプソディ」はラストで何と「君が代」の断片が高らかに鳴り渡る。当時米国統治下にあった沖縄での放送のために書かれた作品だが、いわゆる「進歩的文化人」に近い立場だった外山の「日本と沖縄」を考えた微妙な心理が垣間見える。
アルバムの締め括りは代表作「管弦楽のためのラプソディ」。どっしりと運ばれた響きからズシズシとエネルギーが聴き手に迫る。作曲と指揮の「二刀流」を長年貫いてきたプライドを凝縮した貫禄の演奏。
経歴と業績の割にもう一つレコード運のない印象のあった外山雄三だがここにきて内容の濃いディスクが次々リリースされるのは慶賀の至り。90歳を迎え、ますます輝くことに期待している。
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