ジョージ・セル【指揮台のタイラントと呼ばれて】1970年5月22日「余録」《後編》

レコード会社スタッフが見た巨匠の素顔②

本シリーズのテーマと《前編》はこちらを参照。

三遊亭圓生などの録音のプロデューサーで現在は落語評論家の京須偕充(1942~)は1970年5月、CBS・ソニーの若き制作担当としてジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団の来日公演の裏方を担った。
約30年後に5月22日の東京文化会館公演のライヴ録音がCD化された際のライナーノーツに当時の回想記「マエストロのフィナーレ」を寄せた。

翌15日10時から、フェスティバルホールでリハーサルが行なわれた。その夜の公演曲目を軸に日本公演曲目を次々と、淡々とこなしていく。
2時間半の枠だから、要所要所を試奏確認していくやり方だ。すでにやり込んでいるプログラムとみえて、大過なく進行していく。まさに名工職人の工房。客席ほとんど無人のホールに響く緻密でメロウなサウンドは比類のない美しさだ。とくにモーツァルトの交響曲第40番のフィナーレは壮絶を極めた。
その夜、7時からのコンサートは、この「東京ライヴ」と同じプログラムである。その結果を大成功と言ったのでは、月並みに過ぎよう。なまぬるい、情緒的な形容詞ではとても言い表せるものではなかった。とにかく、ホールは沸騰した。

京須偕充「マエストロのフィナーレ」

ちなみにツアー中随行したCBS・ソニーの大西泰輔など周囲の日本人に初日の本番の冒頭で演奏する「君が代」のテンポを確認し、譜面を出番直前まで見ていたという。

ひと晩で一変した日本における評価

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