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ラーメンと まごうばかりの モンブラン

青いお皿の上に盛られた、狐色のメレンゲと雪白のクリーム。
その上に降りそそぐ、淡いベージュの錦糸。
その、繊細さと、おおきさ。

ため息がもれる。


雨にも負けず、風にも負けず、雪の寒さにも春のコロナにも負けず、突発的に京都旅行に行ってきました。
いやあ、聞いていたとおり、めちゃくちゃ空いていました。

そんなガラガラの京都でも、超人気店は行列です。


和栗専門店 沙織


国産和栗のみを使用し、細さ1ミリで絞り出した栗ペーストが売りの、高級モンブランのお店です。
開店前から並んで整理券を手に入れないと、入店すらままならないというそのお店に行くのが、旅行のメインのひとつにしていました。


行列のできる人気店、といって思いつくのは、どちらかというとB級グルメ系のお店です。
ラーメンとかは、その代表格。

反対に、「おしゃれなカフェ」「高級」といった類のお店は、ゆったりした空間と時間が売りなので、値段設定のこともあり、行列になることは稀だという感覚があります。
まあ、近年はパンケーキにしろかき氷にしろ、とかく並びはしますけども。


行列のできる店でヤキモキするのは、
・時間通りに入れるのか
・忙しなくてイライラするのでは
という点です。
ツメツメの旅行のスケジュールの中、ひとつ目の時間のことが何よりも気がかりでした。


結果として、この「沙織」というお店、

空間と食の演出は“いいお店”
効率の点では“ラーメン屋”

という、一見相反する要素を兼ねそろえた、大変すばらしいお店だったのです。
ラーメンの如し、というのは、別に見た目の話ではありません(ありませんよ)。


わたしが何より驚いたのは、回転効率のよさです。

整理券を受け取った段階で、わたしは40番台でした。
(これでも配布開始前から並んでいたのですが。)
案内によると、40番台の目安は13時ごろ。

でもこういうカフェの時間て、どうせ予定通りいかなくて、14時ごろになるんだろうな。

と思っていました。
ところが、呼び出しアプリでお呼びがかかったのが、なんと12時すぎ。

えっ!もう???

と思いながら、お店に向かいます。
そこで改めて受付をして、席が整うまで少し待ってから案内されました。


思ったよりもだいぶ早かったな。

その理由は、あっさりと判明しました。


わたしのお店の滞在時間は、おおよそ40分か50分ほど。
なんでこんなに短いかというと、あらゆる無駄が削ぎ落とされているからなのです。

まずメニューが少ない。
そもそもみんなモンブランを目掛けてくるので、一見さんはモンブランを頼むし、リピーターでも他のチョイスは「季節のパフェ」か「季節のタルト」しかありません。
ドリンクも必ずセットになっているので、わずかな選択肢から選ぶのみ。
オーダーはあっさり決まります。

そこから待ち時間は15分くらいあったと思います。
この間に、店内を眺めたり、目の前で仕上げられていくモンブランを眺めたりと、ゆったりとした時間を過ごします。

そしていよいよ、モンブランがサーブされます。

まずドリンクが、思ったより少ないんですよ。
美しい焼き物のカフェオレボウルに、半分ほど。
とてもお上品です。
カフェの長居の原因は主にドリンクなので、これでは長居のしようがありません。

そして、モンブランの説明の最後に
「メレンゲがサクサクのうちにお召し上がりください」
と付け加えられます。
そう言われて、
「いや、わたしは湿気を吸ってべちょっとなったメレンゲが好きなので!」
という人はいないでしょう。

もう食べたくて仕方がないのですから、早速食べ始めます。

どんなにゆっくり食べても、食べ終わるまでに10分か15分ですよ。
お茶も冷めるし。

山のような大きさのモンブラン。
それを心ゆくまで堪能して、付け合わせの梅昆布茶でシメ。
ほう、と息をつく頃には、身も心もすっかり緩んでいます。

そうしてほっと一息ついていると、
「当店テーブル会計になっております」
とスっとお会計が差し出されます。

「こちらお下げしても」などというやりとりはなく、飲み物も全て飲み終わったタイミングで出てくるので、有無の言わせようもなければ、嫌な感じもまったくありません。

言われるままに支払って、それでおしまい。
ごちそうさまでした。
お帰りはあちら。

さて、時計を見れば、たかだか50分程度の滞在。
高級カフェとしては、客の回転効率が高すぎではないでしょうか。
それでいてまったく不満に感じないのは、急かされているのではなく、無駄な時間が全て削ぎ落とされているからなのでしょう、

なるほど、この回転スピードだったら、予定よりも早く呼び出されるわけだ。


時間とは反対に、空間の方は実にゆったりとしています。

和風の渋いたたずまいからは、絶対に美味しいものが食べられるという確信しか感じません。
エントランスは広めのホールで、2階部分まで吹き抜けになった高い天井と、小さな中庭から差す朝の光。
中のカフェスペースへは、細い廊下を通るようになっているのも、京都っぽくていい感じです。

この広いエントランスと細い廊下、席に着くと分かるのですが、寛ぎ空間を演出するのに一役買っています。

エントランスは人が20人ほど入っていても窮屈に感じない程度の広さがあり、かつ天井が高いので、圧迫感がありません。
そして、ここからでは客席の様子がよく見えないので、

「あー、あそこ食べ終わったのにずっと喋ってる……早く出てよ!」

みたいなイライラを感じることがありません。

一旦中に入って席に着くと、廊下の先のホールの話し声は、ほぼ耳に届かなくなります。
「人が待ってるから急がなくちゃ」
というストレスがなく、ゆったりと座っていられるのです。

騒音から隔離された空間。
窓の向こうの鴨川の景色。
目の前でひとつひとつ仕上げられていく、宝物のようなモンブラン。

最高か。

椅子もゆったりしているし、隣との距離もほどよく開いているし、寛ぐことこの上ありません。

そうしてぼーっとしていると、カウンターの中から、
「ただいまからお客様の分をご用意いたします」
と声がかかって、クリームの絞り機を正面に向けてくれます。

この特別感。

いいお店に来たなぁ、と思いながら、至福のまま優雅なひとときを楽しむことができました。

ラーメン屋の回転と、洗練された演出。

このふたつがあれば、行列のできる店は無敵だろうな。
そんな確信を得て、わたしはさらなる京都観光に繰り出したのでした。


沙織のモンブランはインスタでたくさん見れますが、こちらにも貼っておきますね。
京都に行く人は、ぜひどうぞ。
幸せの時間をお約束します。

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