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物語のまとう香りを求めて:文學アロマセラピー体験記

noteで発見して興味をひかれた「文學アロマセラピー」のトライアルセッションにお邪魔してきました。

当日、予約時間より大幅に遅れてばたばたと駆けつけた会場で、主催のアロマセラピストの本多さんに暖かく迎えられ、ほう、と息をつきながら、セッションは始まりました。

セッションを予約したときから、悩んで悩んでどの本にしようかと迷って、最終的に選んだ本はこちら。

わたしの大切な、そして大好きな物語である、『ライオンと魔女』です。

小学生のときに初めて読んだこの本は、自分のnoteでなんども書いていると思いますが、とても大切な、思い出深い、そして感情や解釈が地層のように積み重なった作品です。

本多さんから、本に対するイメージや印象をたずねられて、まずお伝えしたのが、
「寒い雪の日の暖炉の暖かさと美味しい食べ物」のイメージです。
これは、わたしがおそらく初めて読んだ頃から持っているイメージです。

それから、冬の寒さと希望のない暗さから、春の目覚めと希望の光へと転換していくイメージ。
その象徴としてのクリスマスの喜び、というようなことを言った気がします(もう覚えていない)。

本多さんにも「いくらでもしゃべっていられそうですね」と言われましが、ほんとうにいくらでもしゃべっていられるだけの解釈と、さまざまな立場からの考察がありまして。

実は本を選んだ段階で心配していたのは、「多分この本のイメージを言語化してできる香りと、わたしの好きな香りは絶対に合わないだろうな」ということです。

わたしの好きな香りは、香水でいえば重甘ったるいもので、ジョー・マローンのトンカビーンズやカカオを使ったもの、ローラ・メルシエのアンバーバニラ。
それからややスモーキーだったりスパイシーだったりするもの。
逆にシトラスやフローラルは香りが好きでも、肌につけると臭くかんじてしまうので、夏でも冬っぽい重ったるい香りを身につけています。

アロマディフューザーなどで使う分には、効能のほうを重視するので、その中で香りが嫌いではないものを選びますが、やっぱりウッド系のものによりがちです。

一方で、「希望」といったらなんとなく明るい光のイメージで、レモンやオレンジなどのシトラス系がド定番だろうな、という印象がありました。
でもナルニアの「希望」はそちら側じゃないんだ。
あと好き嫌いでいえば、それほど惹かれないんだ。

そんなわけで、「シトラス系はあまり得意ではなくて」と伝えた上で、ナルニアにおける「希望」は春のイメージ、雪解けから草木が芽吹き、青々と葉を広げていくイメージであって、果実のほうではないということもお伝えしました。

そこからはもう、これは共同作業でした。
本多さんがずらりと用意してくださっているアロマオイルから、「これはこういう木から取れる香りで」とか、「これは冬に咲いて春に実をつける木で、作品の冬から春へというのに合うかと」とか、次から次へと提示してくださる香りを嗅いでは、
「あ、これ好き」
「うーん、好きだけどイメージと違うような……」
「え、これって木なのに甘いかおりするんですか?」
とか、わたしの方は言いたい放題、好きだけど違うとかいいけどなんか好みじゃないとか。

そうやって、自分が持つ作品のイメージとそれに似合う香りに、自分の好みがどれだけすり寄れるか、という試行錯誤を延々と続けていきました。
試した香りは10種類以上あったのではないでしょうか。

結局この作品の肝となるのはアスランで、アスランによって冬が終わって春が来るのが重要なポイントで。
子供たちもナルニア人たちも、そしてわたしもアスランが大好きで、会えるととても嬉しくて。
その嬉しさ、安らぎ、といったものがどうにか表現できるかな、と思ったり。
でもそれはシリーズ全部に通して言えることなので、それがありつつこの『ライオンと魔女』について考えると、やっぱり「暖炉の暖かさ」や「雪の積もった森の厳しさ」というのが特徴なのかな、と思ったり。

というのは今この記事を書きながら考えたことですが、うん、難しいですね。

長々とああでもないこうでもないとうめき続け、鼻もだんだんおかしくなってよくわからなくなりつつ、最終的に落ちついたのが、温かみのある甘さの中に、針葉樹の爽やかさとスパイスのエッセンスのかおるブレンドでした。

いやあ、香りをブレンドするのって大変なんですね。

アロマスプレーも作っていただき、また別の作品でやってみたいですー、なんて話していたら、あっという間に1時間半たっていました。
トライアルセッション、30分のはずなのにまことに申し訳ない……
本多さんがお話しやすい方で、ついつい思いついたことを口にしていた結果です。

そして次の予定に完全遅刻状態のわたしは、ダバダバと駆け足でお暇することになりました。
会場になっていた「Book Travellras」もすてきなお店(のよう)だったので、今度時間を作ってちゃんと行きたいです。

家に帰って、寝る前に寝室でスプレーをシュッシュと撒いてみました。
鋭くかおる木の匂いのあとから、ほんのり甘さがただよってきて、うん、いいなこれ、と思いました。

香りを作りながら感じたのは、物語のどこに焦点を置くかがかなり重要だということです。
作品全体のイメージは大事にしつつも、その中でも「特にこれ」というものを、できる限り絞り込まないと、自分でも嗅いだかおりが「その作品」なのかわからない、ということになるのだな、と。

今回やってみて、なるほどー、と思ったので、次はまた別の作品で、今度はアロマオイルを作ってもらいたいなと思います。

次はどうしようかな。
『高慢と偏見』の香り欲しいんだよな。
でもこの作品も難しいからなぁ……
いっそMr.ダーシーの香りにしてもらおうかしら。

自分の好きな言葉が香りになる体験は、なかなかありません。
興味のある方は、ぜひこの文學アロマセラピー、試してみてください!

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