ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ その後
――数年後
チョイスは見知らぬ土地でとあるショッピングモール内の旅行代理店の窓口の職を得た。全国を旅していたのが面接官にウケたようだった。
「いらっしゃいませ」
カップルが来店した。少しやんちゃそうな背の高い男と、青い髪の美女。
「ハネムーンですか?」
「はい」
2人は仲睦まじく、ニコニコしている。
「今ちょうど、ハネムーンのお得なキャンペーンやってまして」
「へー、よかったね」
男が彼女に声をかける。うん、と大きくうなずく彼女。
あれこれと説明をし、その場で旅行先とプランを決め、あっという間に会計の段取りとなった。
「あー、ちょっと俺、下でお金下ろしてきます」
「あ、はい、ごゆっくり」
チョイスは青い髪の女性と向き合った。どちらも言葉は出ない。
「……痩せた?」
女性が沈黙を破った。
「5キロ太った」
「ちゃんと食べてる?」
「ちゃんと食べたら太っちゃった」
「そっか」
彼女は笑った。
「「……あのね」」
あの日のように声が重なった。チョイス達は微笑んだ。彼女が続きを促す。
「……ごめんね」
「え?」
「……俺が悪いのはわかってたんだけど、受け入れられなくて、その……甘えてた」
「……私の方こそごめんね」
思いがけない彼女の言葉に、チョイスは目を白黒させた。
「もっとどうにかしてあげたかった、辛い時だったのわかってたのに、ひどいことして出ていっちゃった、もっと配信のモチベーション上がるようにちゃんと褒めたかったんだけど、馬鹿だからさ、よかったしか言えなくて」
「き、君は悪くないよ、ぜんぶ……」
扉越しに戻ってきた彼氏を見てチョイスは感情を押しとどめた。
「……素敵な旅行になりますよ」
「お待たせしましたー」
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
支払いを終え、立ち上がる2人。きっと楽しい日々が待っているのだろうなと思うと、チョイスはあまりのまぶしさに2人を見るのが少し辛くなっていた。
「ありがとうございました」
「……嫌いな自分を受け入れるってやつ、よかったよ」
「え?」
深々と頭を下げながら、顔だけ持ち上げた滑稽な姿のチョイスを残して、2人は腕を組んで店を出ていった。
「ただいま」
「おかえり」
「今日のご飯は?」
「ホイコーロー」
「おお! なんかあったの?」
「まぁとりあえず座って!」
「?」
「……なんと、できてました!」
「……ホントか!」
「うん! だからこれから禁煙してね!」
「……しかたないな!」
チョイスは胸ポケットのハイライトとライターを取り出し、ゴミ箱に放り投げた。
―ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 完ー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?