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自分の悪口を生で聞いてテンションぶち上がった話

高校2年の学園祭の時、なぜかナンパされた。そのあとでクラスメイトが悪口言っているのを聞いて、ガチでテンションが上がった話をする。
書く理由は面白かったから。

学園祭はおしゃれをする日らしい

私は女子校に通っていた。
学園祭には、男子生徒が遊びにくるらしい、という風の噂が流れていた。よくあることだ。
クラスの皆は外部の人間が来るということに色めき立ち、いつもより気合の入ったメイクを行なって身なりを整えていた。

私はそれを見て、
「なるほど今日はそういう祭、つまりハレの日なんだな。私もみんなに合わせておしゃれの一つでもやってみるか。」
と謎の意気込みでメガネを外してちょっとリップとか塗ってみた。
ちょっといけてるやないの、とトイレの鏡で自画自賛してみたりもした。
別に見た目はたいしてよくなかったが、そこは「おしゃれ」という一種の呪いで自信がついたと解釈してほしい。
ちなみに、参観にきた親の撮影した写真を見たら、死ぬほどダサかった。当時の私には前髪を切れと言いたい。

実質グリーティング

さて学園祭初日が始まった。
私はシフトに則って、クラスの展示の入り口案内を行っていた。
教室内はいくつかの仕切りで分けられており、各部屋に撮影スポットを設置していた。
私は最初の部屋の説明も担当だった。

しばらくすると、男子数名のグループがやってきた。
撮影スポットの話をすると、グループの1人が「写真を撮りたい」と言ってきた。

私は友達と記念撮影を行いたいのかと理解して、
「スマホをお貸しいただけたら写真お撮りしますよ。縦と横どっちがいいですか?」
と慣れた感じで聞いた。私はこういう時の外面に関しては自信がある。オープンスクールでも、ご婦人方から「上品でしっかりしている」と高評価だったくらいだ。任せろ。

すると「写真を撮りたい」と言ったのとはまた別の人が、
「一緒に撮って欲しいんだって」
と訂正を入れてきた。言い出しっぺは何故か照れている。

あ?いったい何を言っている?君は旅行の時に、友達じゃなくてバスガイドと記念撮影するのか?変わったやつだな。
と思ったが、客にそんなことを口走ったらクレームまっしぐらだ。
賢い私は何も言わないでおいた。

結局、
「え?一緒…?はあ、まあ、いいですが」
とよくわからないまま一緒に撮影した。
何だこれグリーティングか?
彼らは礼を言った後、次の部屋へ向かって行った。
集合写真は要らなかったらしい。

言い出しっぺ少年が、周りから「よかったな」と言われていた。
グリーティング後のミッキーの気分だった。言い出しっぺ少年はミッキーと一緒に写真を撮った子供、周りは保護者。
まあディズニーランドとか、3歳の頃、チップ&デールにポップコーンを取り上げられるいたずらされてキレてから、一回も行ってないけど。

変わった客だったなと思いながらも、接客を続けていたら5分後には忘れていた。

察したよ、さすがにね

そしてしばらくすると、教室内を見終わったらしい例の男子グループが、もう1回入口にやってきた。

言い出しっぺ少年が進み出てきて、
「ライン交換しませんか」
と聞いてきた。妙に顔が赤い。

流石にここまできたら私でも意図を察した。
しかし私は基本ラインの返信が塩で、見知らぬ人間と交換したところで話すことなど何もない。仲良しのLちゃんへの返信すら、相手の画面で見た時、塩すぎて驚いたくらいだ。

めんどくさいから、「スマホを控え室に置いているので交換できない」と伝えた。
なんかその後も、「スマホ取りに行く間待ってます」「電話番号を教えて欲しい」等の押し問答が繰り広げられたが、シフト中だし個人情報を言うのはちょっと、と誤魔化した。

押しが強いぞ、こやつ

そして15分後。
先ほどの少年がもう一度やってきた。
今度は白い紙切れを手に携えている。
「のすけさん(実際は名字)!これ、僕の電話番号です。電話待ってます」
と半ば無理やり押し付けられた。名字はさっきの応酬で嫌々教えた。

というか、電話番号とか貰っても困る。個人情報はちょっと、って言っただろ。そっちのもいらないよ。

拒否しようとしたが、少年は紙切れを私の手に握り込ませた後、「あの、ほんと、待ってるんで!」と言いながら去って行った。

Unlimited no恋バナ Works

そしてここでクラスメイトに見つかった。
いやその前から少数には目撃されていたが、廊下の往来で大声で呼び止められてめちゃくちゃ目立っていたらしい。

「えーー!まってまって何今の!」
「ナンパ!?ナンパじゃん!」
「どうするの!?電話するの!??」
ときゃーきゃー言う女子10人ほどに囲まれた。
おいお前ら、今までそんな私に話しかけたことないだろ。
恋バナってだけでノリ違いすぎだろ。こわいよ。

しかもこの騒ぎの途中で、少年がもう一回帰ってきて
「電話、待ってます」
と念押ししにきたせいで余計に騒がれた。
なぜ私に来るんだ。私よりも遥かに可愛い子がいたではないか。
顔面判定に厳しい私が認める、類稀な美人がいるんだぞ。その子に行けよ。レア度で考えたら、一縷の望みをかけて連絡を待つならあっちだろ。

女子の面々は、顔はどう思っただの、好きなのかだの、なんでそうなったのかだの、好きじゃないならどんな奴がタイプなのかだの、

幾たびの質問責めを超えて不敗。

ただの一度も誤魔化しはなく、
ただの一度も理解されない。

彼の者は常に独り 屋上で暇を乞う。
故に 恋愛に興味はなく。

その体は きっとご飯で出来ていた。

fateの詠唱パロディの1つでもしたくなった。
当時質問攻めされた時、脳内で本当にこんなことを考えていた。

空は高く風は唄う~

学園祭初日が終わった後、1人でちょっと涼みにいった。疲れた。
しばらく風に身を任せ、雲の流れを眺めていたら、疲れがちょっと取れた。
気分も晴れたし、よし帰るか、と教室に荷物を取りに行った。

すると中から、まだ残っていた生徒5人くらいの話し声が聞こえてきた。
これが冒頭で言った私への生悪口である。

まず思ったのが、「え!?私に関心あったんだ!」ということだ。普段話しもしない相手がこちらを気にしているとは。
そして自分の悪口を生で言われていることになぜかテンションが上がった。なかなか聞ける機会のない、レアものではないか。
私はしばらく黙って聞いていた。

遠回しに褒めてね?

曰く、
「あれ絶対狙ってやってたよね」
「ちょっとオシャレとかしてさ」
「なんかメガネ取ってたよね」
「ピンとかつけてさ」
「ぶりっこじゃない?自分のこと可愛いと思ってるでしょ」
などなど。
どうやら今日の私へのナンパがトピックらしい。

ちょっと照れたね。今日に限ってオシャレしていたこととか、私のことを細かく、よく見てるじゃないか。
「好きと嫌いはベクトルの違う関心だ」というのをどこかで見たが、その通りだと思った。

そして声で気づいたが、私が廊下で女子に囲まれた時、少し遠巻きに私のことを睨んでいた女子が、今、中心となって悪口を言っていた。
妙な視線が引っかかっていたのだ。
なるほど、表でそういう態度だと、裏でこうなるのか。面白い。

でもちょっと気になることもあった。
狙ってやれるモノなのか?ナンパは。どうやっても相手の意思が絡む以上、どんなに頑張ったって起こらない可能性は十分ある。
その上で、「私が狙ってやった」と思ったのか?

つまり、私には「狙いさえすればナンパ待ちも可能」なポテンシャルを秘めていると、言外にそう認めたことになるが、悪口としてそれはいいのか?
今、聞いててちょっと嬉しかったぞ?なんか失敗してない?

自分のことを可愛いとは思っていなかったが、今のその発言を聞いて逆に自信がついた。
そう、私に悪感情を抱いている相手ですら、私が多少なりとも可愛いことは認めざるを得なかったのだと。
流石にそこまで言われるなら、私も自己イメージと周囲の評価とに開きがあることは認めよう。
まあ今は太ったので、そのポテンシャルも無駄になっていそうだが。

いやはや自分でも、悪口に対してものすごいポジティブシンキングだと思う。
普通なら、おそらく悪口を言われたことにショックを受けて落ち込んでいる。

だが小3担任の本気の人格否定(だらしない、お前みたいなのが生まれて親が可哀想)と、キレた家族からの罵倒(デブ、クズ、父親似のお前の顔は見たくない)に比べれば、こんな程度の悪口は可愛く思えて仕方ないのだ。

でもちょっと不満もある。
オシャレしていたのをまるで悪いことのように言うが、この日は皆していたことだ。
いつもしないリップをつけた人や、気合の入った髪型の人もいたし、いつもはしないパウダーもしていなかったか?着替えの時間、誰のかわからない粉が教室に舞っていた。みんなやってたじゃないか。

私はそれを見て、今日はおしゃれをする祭りなのだと思ったんだぞ?
私だけ悪いみたいに言うな。

「噂をすれば」実演

とまれかくまれ、一通り聞き終わって満足した私は、堂々と教室に入って荷物を取りに行った。

悪口を言っていた相手が突然教室に入ってきたので、向こうはめちゃくちゃ気まずそうにしている。女子5人は、輪になって装飾小物を修理していた。

一方、私はかなり上機嫌だった。
貴重な体験をありがとう。いい話が聞けたよ。本当に感謝している。
そう言う気持ちを込めて、
「おつかれ〜、まだ作業中?」
と聞いた。
グループの1人が非常に気まずそうに口を開いた。
「今日ちょっと壊れちゃったから直してて…」
「そうなんだ。わざわざ残ってやってるの、えらいね。すごいと思う。お疲れ様。頑張って!」
私はニッコニコで褒めた。褒めるのは下手だが。
私はまた明日、と教室を出て行った。

扉を閉めたあと、また中から声が聞こえてきた。
「さっきの絶対聞こえてたよね?」
「それであの態度?」
「え、こわ」
とかなんとか言っていた。なんとでも言え。私は今機嫌がいい。

正直、ここでもう一回入って「ばあ!」と奇声を発して驚かすというのも乙だと思った。
しかし私には、Lちゃんという仲良しの友達と下校するミッションがあるので、そのまま帰った。

愛しのLちゃんと下校

私は待ち合わせをしていた親友のLちゃんと共に下校し、今日の事の顛末を話した。
ナンパに関しては
「まあチョコちゃんはかわいいからなあ」
と言っていた。
いつもなら否定するが、今日の件で認識を改めたので素直に聞いておいた。
私は
「ふふん」
と得意気に笑った。

あと悪口を言われたことに対して、大丈夫かと心配してくれた。
まあ定義によるが、衝撃という意味ではギリ、精神的ショックの範疇ではある。どちらかというと、恋バナの質問攻めの疲れが大きい。
しかしせっかく心配してくれたのだ。
私はその気遣いに甘えることにした。

「まあちょっと疲れたかも」と言って、手を繋いで帰ったよ、ふふ。
こういう時くらいしか手を繋ぐ口実がないのでね。
惚気だよ。甘いか?味わえ。

ちなみにナンパでもらった紙は捨てた。
10人に囲まれて、興味のない恋愛話をさせられるきっかけになった挙句、私に「電話しろ」などと干渉してきたやつの事など知るか。

純粋に恋愛的好意を向けられたのは初めてだったし、あの念押しの回数だと相手もかなり本気だったろうから、多少罪悪感はあった。
だが電話したところで、恋愛に興味のない私とでは時間の無駄である。
諦めてもらうしかあるまい。

以上が、私の人生最初で最後のナンパ経験と、生悪口の経験である。
Lちゃんと手を繋げた上、自己イメージが多少改善したという、非常にいい思い出だ。

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