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『MEN 同じ顔の男たち』映画感想文

公開中の『MEN 同じ顔の男たち』を鑑賞してきました。

映画界の常識を変えつつある製作・配給会社『A24』がおくる、アレックス・ガーランド 脚本・監督のホラー作品です。

メンタルを揺さぶる、かなり尖った作品でした。上映中には、スッと入ってこなかったアレックス・ガーランドの詩的な映像の世界を振り返り、その謎に漂ってみようかなと思います。

※この感想文は、ネタバレも含みます


【あらすじ】夫の死を目撃してしまったハーパーは、心の傷を癒すためイギリスの田舎町へやって来る。彼女は豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリーと出会うが、街へ出かけると少年や牧師、警官に至るまで出会う男すべてがジェフリーと全く同じ顔だった。さらに廃トンネルから謎の影がついてきたり、木から大量の林檎が落下したり、夫の死がフラッシュバックするなど不穏な出来事が続発。ハーパーを襲う得体の知れない恐怖は、徐々にその正体を現し始める。

映画COMより

①森に佇む全裸のおじさん

前半に登場する全裸のおじさんは、ただの変態さんですね。ガーランド監督は『進撃の巨人』のファンらしいので、あのシーンは作品中に全裸のおじさんを入れたいだけかなと思いました。後半に出てくる葉っぱの顔をした全裸のおじさんは、グリーンマンという西ヨーロッパに生息する森林の精霊で、前半のおじさんとは、別の意味合いなんだと思いました。

②禁断の林檎

カントリーハウスの林檎を無断でかじってしまった主人公のハーパー。
カントリーハウスの貸主は、その林檎を『禁断の林檎』と呼びました。禁断の林檎といえば、やっぱりアダムとイブ。

そして、イブに禁断の林檎を食べるよう、そそのかしたのは蛇です。

作品の中に、蛇はどこかにいたでしょうか? 
蛇はいませんでしたが、夫の裂けた腕が蛇に見えました。
(マンガ『寄生虫』の後藤と同じという話も一部ありますね)

爬虫類系がいれば、兄弟神の獣系エンリルのイメージもあるかも。
ムダにあった鹿の死体に蛆がわいていたシーンがそれっぽい。このふたつのシーンで、爬虫類系、獣系の両神様のイメージは死んでいる。

つまり ハーパーにとって神は存在していない?
そんな感じかしら?

③オレンジの部屋

若いときに部屋のカーテンをオレンジ色にしていたことがあって、そこに光が差す暖色の感じが、胎内に抱かれてるようで、とても好きだったんですね。夕食の準備をするような時間の色で、オレンジ色には『生』を感じます。

だから、このオレンジ色の部屋と夫の『死』が結びついたとき、『死』のコントラストが強くなり、よりエグイ描写に仕上がっております。

こういう光の使い方が、ガーランド監督のスゴイと言われるところなんでしょうか・・・。色んな思いが浮かび、とても辛い気持ちになるシーンではありました。

④出会う男が同じ顔問題

作品の最初と最後に流れる曲の歌詞にですね、
『あなたに、わかる?』というフレーズがありましたね。

まず主人公のハーパーは、『出会う男たちが同じ顔だ』とは言ってはいないので、これは観客向けに、みんな同じ顔でご用意してますけど、ちゃんと気づきましたか?ということなんでしょう。たぶん。

ちゃんと向き合うことが、作品のテーマである『愛』のメッセージだと、わたしは受け取ったので、観客にも『ちゃんと顔を見てくださいね』ということなんだろうと思いました。それにしても、すべての男性役を一人でこなして、凝視しないと気づけないくらいの、ロリー・キニアの演技力はすごい。

⑤トンネルのこだま

散歩中の主人公がトンネルの中で『oh oh oh』とリズムを刻むシーン。
長めのトンネルだとあんなふうに、美しくこだまになるのかしら?
試してみたくなっちゃう。

トンネルのシーンでは、そんなに気にならなかったのですが、衝撃のラストで、効果音として、あのこだまの音を使用したとき、頭の中でシルヴィア・プラスの詩の世界が浮かびました。

彼女は詩では、反芻する苦悩にこだまという言葉を使っていて、自分の意志とは関係なく、繰り返され、それがさらに自分を苦しめてゆく。
そんな印象を持つ詩です。

⑥タンポポの綿毛

タンポポの綿毛のシーンも気になりました。 グリーンマンが登場したのは、タンポポの綿毛がハーパーの口にひとつ入った後でしたっけ? 
拒絶していたものを、受け入れたイメージなんだろうか?

シーンとしては恐怖シーンですけど、ハーパーが受け入れたことによって、これまで神様は死んでいていなかったけど、森林の精霊グリーンマンが、助けに登場した印象を持ちました。

⑦怒涛に生まれまくるクライマックスのアレ

アレが生まれてきては、刺してゆく、主人公のハーパー。
刺されているアレは、ハーパーの感情の擬人化でしょうか?

血だらけで、生まれくるアレは、攻撃性など示さずに、心配そうに、ただ近づくだけの愛の化身に見えました。

アレは、グリーンマンの魔法ですかね?

ハーパーは次々と現れる感情を受け入れられない。目をそらし、逃げ、拒絶して、また逃げて、刺しては消して、また生まれて。

ひとしきり感情を出し切った後、
ハーパーは静かに アレと向き合っていました。


結局のところ、現実と非現実との境界線が、曖昧なホラー映画でした。

物語はハチャメチャで、美しくもおぞましい映像を羅列して、物語の本質を観客それぞれの感性にお任せするような映画で、疲れちゃいました。

近しい人を亡くす、愛別離苦の苦しみは、尋常ではないのです。
特に自死の場合は、亡くなる前の状況も、壮絶です。

悲しいとか、苦しいとか、さみしいとか、自責とか、他責とか、悔やみとか、納得とか、罪とか、罰とか 愛とか、制御不能な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、こだまになって、反芻するのです。

自分は生きているのに、まるで生きていないような
ことばも 色も 音もない世界を ただただ漂うのです。

だからこの映画を観て自分の感性とは違うと感じました。

そして、世界から切り離された空間にいたあのときのことを、
ずっとネガティブなことのように思っていたんですけど

心が制御不能になったとき、そうなるのは
外部の刺激で、今以上に傷つかないようにする
防衛本能なんだなぁって思って

映画を観た帰り道
そんな本能が愛おしく思えて 

その点では、この映画を観てよかったなと思いました。


今日は  Awich 姉さんがうたう
ジョンレノンの HAPPY X-mas を貼ってみました。

はっぴー メリークリスマス🎄

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ありがとうございます。







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