【イギリスのキャットフード問題】ペット事情の深い闇
8月の初め、
猫好きにとっては、結構衝撃的なニュースが飛び込んだ。
「イギリスの獣医が謎の病気に悩まされている有毒キャットフードの恐怖」という見出しで、
対象のフードはリコールされたものの、フードと猫の病状との因果関係は見当たらず、しかもなんと、生産再開が許可されるというのだ。
う~む……。
*
現在、AMAZON、楽天などECサイトでも、もちろんリコールを受けて対象製品を購入することはできない。
また、正規輸入品として日本での流通はないとのことだが、万が一過去にネット購入していて、在庫を持っている飼い主もいるかもしれない。
もし心当たりがあれば、チェックして、すぐにでも猫を病院へ連れて行ってほしい。
リコール対象の製品はコチラ↓から確認できる。
また、あとの方で詳しく解説するが、このリコールの裏にはイギリスのペット事情にからんだ、奥深い闇が潜んでいる。
ぜひ最後まで目を通していただければと思う。
キャットフード リコールの経緯
ソースはイギリス『The Guardian紙』。
問題のキャットフードがリコールに至った経緯を、時系列でざっくりと紹介すると、
①今年5月24日、英国食品基準庁(FSA)の調査で、猫の死亡原因としてフードに含まれる『マイコトキシン』の可能性を指摘された。
②対象のキャットフードは、英国大手スーパー「セインズベリー社」の独自ブランド品、また、ペットケアの企業「Pets at Home」が取り扱うフードブランド品、そして生活雑貨を取り扱う「ウィルコ」の独自ブランド品など、合計31製品。いずれも製造元は、英国のペットフード製造メーカー「Fold Hill Foods社」だった。
安全でないキャットフードが、特定されていないため、一部メーカーによる予防措置として挙げている製品も含まれる。
③6月17日、リコールにより製品が回収され、英国王立獣医大学(RVC)とFSAが詳細な原因調査を開始。
④以降、次々と重度の汎血球減少症(白血球減少症、血小板減少症、貧血からなる)と診断される猫の数が増加。RVC病院でも、通常このような症例を診るのは年に1例程度とのこと。
⑤8月2日、RVCはこの時点で、少なくとも528件の症例を把握していて、そのうち63.5%(335匹)が死亡したと発表。しかし、すべてのデータがRVCへ提供されているわけではなく、実際の死亡数ははるかに多い可能性があるという。
⑤8月26日、FSAはフードからマイコトキシンが検出されたことは認めつつも、それ自体が猫の汎血球減少症の原因とはいえない、汎血球減少症とフードとの因果関係は明確ではないとし、Fold Hill Foods社の生産再開に向けた措置を講じると伝えた。
事件の状況
初めに、5月24日の食品基準庁(FSA)の調査で、猫の死亡原因としてフードに含まれる『マイコトキシン』の可能性を指摘されたのだが、このマイコトキシンとはカビ毒のことで、ペットはもちろん、人にとっても有害な化合物だ。
王立獣医大学(RVC)によると、このマイコトキシンは、穀物や野菜などのさまざまな作物で生成され、穀物、ナッツ、ドライフルーツなどの食品に現れるという。
各国でまちまちだが、食品におけるマイコトキシンの基準値があって、日本でも、ナッツ穀物リンゴ豆類の基準やガイドラインを設けて汚染防止に取り組んでいる。
マイコトキシンには様々な種類があり、その中のT-2およびHT-2マイコトキシンは、体重減少、食欲不振、血球濃度(白血球、赤血球、血小板)の低下させることが知られている。この状態を「汎血球減少症(再生不良性貧血)」といい、最初の兆候は、口、鼻、または腸からの出血、さらに重症になると、血が止まらなくなって死に至る。
なお、今回発症した「ネコ汎血球減少症」は、前説のとおりマイコトキシンというカビ(真菌)が原因で、”血球すべてが減少する” 症状だが、私は初めのうち、似たような名前の「ネコ汎白血球減少症(パルボウイルス感染症)」のことかと勘違いしていた。
後者は、パルボウイルスによる感染が原因で ”白血球が減少する” 症状で別物、ただ、どちらも感染症で、重症化すると非常に危険な病気である点では同じだが。
まとめると、ここまでではっきりしているのは、
・汎血球減少症の症状がみられるネコが増加している
・フードにはマイコトキシンが含まれていた
・マイコトキシンが確認されているフードはごく一部
特定の真菌が、猫の汎血球減少症を引き起こすことが知られているものの、いろいろな食品にも含まれていて、今回のフードと猫の症状とを結びつける、決定的な証拠が見つかっていない。
なんとも、もどかしいことだ……。
過去にもあったフードによる死亡の例
ペットフードによって、多数のペットが死亡する例は、過去にもある。
2007年、カナダメニューフーズ社のペットフードに使われた中国産原料に、有害物質のメラミンが含まれ、腎不全などで亡くなったペットが、推定数千匹にも及んだ事件。
訴訟は2008年に2400万ドル(約25億7千万円)で和解していて、ペットフーズ社はその後2010年にアメリカのペットフードメーカーシモンズフーズに買収されている。
問題なのは、このカナダの事件があって以降、世界中のペットフード製造工場で、品質の見直しや管理体制の強化を図ったにもかかわらず、繰り返されてしまったこと。
まったく過去の教訓が生かされていない!
リコールの裏側に隠された闇
6月17日にリコールされてからもなお、ここまで症例が増加しているのには、店側の対応の悪さがあり、それを裏付ける数々の「証拠」がそろっている。
・セインズベリーで、6月16日のリコールの後に、対象のキャットフードが「最後の購入チャンス」と掲げられ、掘り出し物のように売られている写真。
・セインズベリーのキャットフードコーナーの、製品のリコールを警告する看板が目立つように表示されていなかったことがわかる写真。
・リコールの1カ月も後になってから届いた、セインズベリー会員に対しての7月16日付の警告のメール。
その他にも情報として挙げられているのは、4月22日に、すでにフードが心配だと警告した購入者がいたが、セインズベリー側は、原因ではないとしていたこと。
また、ある飼い主が、オンラインで購入できなかったことで、初めてリコールの事実を知ったというように、まるで購入者には、危険が伝わっていなかったこと。
以上のような証拠から、店側による、無責任極まりない対応の悪さが、病気の拡大につながっているのは間違いないだろう。
先のカナダメニューフーズ社による事件でも、リコール前の食品テストで動物が死亡していたことを伏せて、公表を数週間遅らせている。
むしろ、ここまでくると耳タコでよく聞く「隠ぺい体質」の一言だ。
結果的に、RVCの8/23の最新アップデートでは、症例が563まで増加、死亡率は62.5%(死亡数352匹)、今後ももっと増えると見られる。
イギリスはペット先進国!?
イギリスは、古くから「ペット先進国」と呼ばれる国だが、その理由としてまず挙げられるのが、1822年「世界初」の動物保護法と言われる「マーティン法」が成立したこと。
日本では「動物愛護管理法」が制定されたのが1973年なので、それよりも150年も前のことだ。
そして、1824年の設立以来、動物の虐待犯罪を防ぐために活動している「英国動物虐待防止協会(RSPCA)」による功績も大きい。
その他にも、動物実験や動物虐待に対しての厳しい量刑を定めている動物福祉法「Animal Welfare Act」や、動物保護団体「AnimalAid」、動物保護政党「Animal Protection Party」など、イギリスにはたくさんの動物に関する法律や団体がある。
動物を保護する観点で、日本とは比べものにならないくらい、厳しく管理されているのだ。
そんなペットに優しい、素晴らしい国で、いったい何が起きているのか??
イギリスのペット事情からの考察
RSPCAによると、イギリスでは2019年に動物福祉犯罪に関連した事件を調査し、起訴した事件のうち1,432件について、有罪判決を獲得している。
ちなみに日本で摘発された動物虐待事件数が、2020年で105件、それに比べて圧倒的な数の動物虐待事件を無事解決している。
素晴らしい!さすがペット先進国!!
……と、そうはならないようである。
イギリスでの、虐待疑いの報告数ならば、10万件以上ともいわれていて、これは裏を返せば、それだけ動物虐待する人間が多くいるということ。
今回のフードに関しても、決して意図的に混入させたものではないとは思うが、動物を守るための法律や団体が盛んな一方で、なにか?ペットに対してのずさんさを感じてしまう。
ここで、単純にイギリスと日本の人口に対する犬・猫の飼育数を比較してみる。
【イギリス】は人口:6,708万人に対して、犬・猫の飼育数:2,030万頭
(2020年国家統計局、PDSA PAWレポートデータより)
【日本】は人口 1億2,557万人に対して、犬・猫の飼育数:1,813万頭
(2020年総務省、ペットフード協会データより)
単純にイギリスの人口は日本の約半分なので、一人当たり日本の2倍以上の比率で、犬か猫を飼っていることになる。
では、なぜイギリスでペットの数が多いのか?
「パピーファーム」とか「パピーミル」という、悪徳な繁殖業者を指す言葉は、今では日本でもなじみがあり、同じように深刻な問題となっている。
この理由は当然、「需要があるから」だ。
飼っても(いや、買っても)、すぐに手放してしまう飼い主もいる。
買ってくれる人がいるから、売る人がいる。そして、儲けのためにどんどん繁殖させる。
もし売れなくなったら、叩き売る。それでもダメなら……
このような悪徳業者を取り締まるため、イギリスでは昨年4月「ルーシー法」が定められた。
悪徳業者で繁殖を強いられた犬「ルーシー」からとった法律だ。
子犬、子猫をブリーダー以外の「第三者」が販売することを禁止する法律で、生後6か月未満の子犬・子猫の譲渡ができるのは、保護施設と認可を受けたブリーダーだけ、ペットショップでも販売できない。
ただ実は、そこにも抜け道があって、ブリーダーに見立てた家族を雇い、密かに繁殖させていた業者が、摘発されたこともあって、まさにイタチごっこになっている。
「ルーシー法」が制定されて1年以上が過ぎた今、コロナ禍で、ペットの飼育頭数がますます増えているという。
コロナが収束すれば、繁殖を強いられるペットや虐待を受けるペットがいなくなるのか???
フードの問題から、だいぶ飛躍してしまった感もあるが、
フード問題の隠ぺいによる被害の拡大は、そもそもペットを命と捉えれば絶対に起こりえないはずだ。
ペットを取り巻く様々な問題が起きてしまうのは、儲けに走り、ペットのことをまるで考えないことが原因に思える。
いくら厳しい法律を定めても、どんなに保護団体が叫んでも、するするとすり抜けてペットの安全は確保されない。
自戒の意味合いも含めて思う。
ペットが安心して過ごせるようになるには、
「命とビジネスが、一緒ではいけない」
当たり前のことなのだが、それらを切り離さない限り、解決しないのだろう。
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