なー。

好きなものを好きなように書きます。

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最近の記事

もう少し子供のままで。【下】

隆と駅で別れ、家までの道を歩いて帰る。 今日みんなと会っただけでも少し焦っていた気持ちが、くるみちゃんのインスタの写真を見てから加速した。 周りは、同級生は確実に大人になっているのに、自分は何をしているのだろう。 大人ってなんだろう。ビロードが似合うこと? きっとそういうことじゃないって、ぐるぐると頭の中をめぐる。 「アキちゃん?」 遠くのほうから聞こえた声に顔を上げる。 見えた人影に驚いたけれど、動揺を悟られたくなくて冷静に応えていた。 「くるみちゃん?久しぶり」 インスタ

    • もう少し子供のままで。【中】

      1月5日。中学の部活仲間と集まった。 美術部の部活仲間は女子が多く、八人のうち男子は僕とあと一人しかいない。隆というのだが、今日隆が来なかったら気まずいと思っていたが、ちゃんと顔を出してくれた。 大人数での会食の自粛が要請される世の中だから、中学校の近くの公園に集まった。 それぞれ「久しぶり」と「あけましておめでとう」と一通り挨拶を済ませると近状報告に移る。 「アキは?今何してんの?」 当時部長を務めてくれていた谷さんに話を振られて、美大に通っていると答える。 クラスメイトに

      • もう少し子供のままで。【上】

        窓を開けると綺麗に青空が広がっている。お正月って晴れているイメージが強い気がする。元旦に雨が降っていたことがあっただろうか?記憶をたどるも思い出せない。 犬の鳴き声が聞こえて目を細めると、向かいの家の柴犬が野良猫に絡まれていた。 可愛くない猫だなと思いながら窓を閉める。換気は大事だけど寒さに勝てない。 1月2日。お正月真っ只中。僕は久しぶりに実家に帰ってきていた。 「どうせ大学の授業はオンラインなのだからしばらくこっちにいたら?」と母に6月ぐらいに言われていたけれど、学校に

        • 絆創膏

          「いらっしゃいませー!」 騒がしいとも言えるボリュームの声が店内に響く。 午後9時。 バイトしている居酒屋の店内にはそこそこお客さんがいる。 12月24日の午後9時。 今日飲みに来るならもっとオシャレなところで飲めばいいのに! うんざりしながらジョッキを洗う。 クリスマスイブにバイトを入れたらイライラすることは目に見えていたのに、暇だし、ネタにしようと思ってシフトを入れてしまった。 楽しそうなお客さんを尻目に私のテンションは下がる。 「だれか表出てー!」 店長の声に返事をして

        もう少し子供のままで。【下】

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        • 短編小説集
          6本

        記事

          緑色のカクテル

          高層ビルに入ってるとあるバーにちょっと背伸びして入った。 夜景が綺麗に見える席を選んで彼女を軽くエスコートする。 「こんなところ初めて入った。」 そう言って微笑む彼女に、「俺も。」と答える。 「何飲むの?」の尋ねられ、色に惹かれた緑色のカクテルを選ぶ。 彼女も注文を終え、夜景を見る。 綺麗だね。 彼女が髪をかきあげた時、口に出そうになって飲み込む。 さすがに寒すぎるとわかっている。 注文したカクテルが届くと、 「ちょっとカッコつけて、そっち向いて飲んでよ。」 窓を指さしながら

          緑色のカクテル

          ココア

          「デートしませんか?」 いきなりかけられた声が自分に向けられたものだと気づくのに5秒はかかっただろうか。私が何か答える前に、河嶋くんは自分の仕事に戻ってしまった。驚いて固まっていると、目の前のレジにお客さんが来たので、反射的に「いらっしゃいませ」と言い、レジを打ち始める。本当にあれは私に向けた言葉だったのだろうか。聞き間違えではないのか。きっとそうだと思い、私は仕事を続けた。 「城田さん、どこ行きたいですか。」 休憩時間に名指しで呼ばれて、さっきのは本当だったのだとわかった

          小説版三題噺とメモ

          初めてここに小説以外のものをあげるが、これは自分用のメモの様なものだ。 三題噺というのは客が出した3つの題を即座に一席の落語にまとめて演じること、またその話のことである。(三省堂 スーパー大辞林3.0より) これを小説でやってみようと話になり、やってみた。 ルールはランダムで3つの単語を選び(私は辞書を目を瞑って開き、初めに目に入った単語にした)、その3つの単語を小説のどこかに入れる、とした。 そしてその3つの単語が何かを知人に当ててもらうクイズにしていたので、記事に3つの単

          小説版三題噺とメモ

          チョコレートコスモス

           A棟2階にある2年3組の教室からは中庭がよく見える。放課後になると中庭でテニス部の活動が始まるので、茉穂はよくテニス部を眺めていた。茉穂が所属している吹奏楽部では週に2回程個人練習の日があり、その日は校内の好きな所で練習していいのでこの教室を選んでいる。教室は連なっているから隣の2年2組の教室でも構わないのだが、テニス部を眺める目的を考えると3組の方が都合が良いのだ。中庭を走りまわっているテニス部のダブルス後衛の浅海さんは茉穂の憧れの人だった。教室の窓を全開にして青空を見な

          チョコレートコスモス

          何かが起こるわけではないけれど。

           平田さんのロッカーはいつも汚い。教科書や資料集、授業中に配られるプリントの量は同じはずなのにいつも溢れている。ロッカーは教室の後ろにあり、正方形で三段重なっている。一番上のロッカーの上は物を置けるが、見栄えが悪いので置いてはいけないことになっている。そこに平田さんはよく教科書を置いて怒られている。  放課後の今はロッカーの上は綺麗だ。6時間目、社会科の市川先生は教室の環境に厳しく、ロッカーを見て「誰だ、ここに置いているは。片づけなさい。しかもこの時間に使う資料集まであるじ

          何かが起こるわけではないけれど。

          ゆめのはなし

          ここ1週間ぐらい同じ夢を見ている。舞台は川が流れている大きな公園だ。川の上流へ行こうと、川の側にある階段を上ろうとするとアイツはいる。マトリョーシカのような形で大きさは150センチぐらいの白い花で、葉が手のように動いている。花のめしべの先の柱頭には微妙に可愛らしい顔も付いている。初めてこの夢を見た時は気持ち悪いと思いつつ、スルーして階段を登った。するとその花は私を追いかけてくるのだ。スピードはそんなに速くない。気が付いたら後ろにいて、その花に殴られて目が覚める。 花に殴られ

          ゆめのはなし