もう少し子供のままで。【中】

1月5日。中学の部活仲間と集まった。
美術部の部活仲間は女子が多く、八人のうち男子は僕とあと一人しかいない。隆というのだが、今日隆が来なかったら気まずいと思っていたが、ちゃんと顔を出してくれた。
大人数での会食の自粛が要請される世の中だから、中学校の近くの公園に集まった。
それぞれ「久しぶり」と「あけましておめでとう」と一通り挨拶を済ませると近状報告に移る。
「アキは?今何してんの?」
当時部長を務めてくれていた谷さんに話を振られて、美大に通っていると答える。
クラスメイトには「アキちゃん」と呼ばれていたが、美術部の仲間からは「アキ」と呼び捨てにされていたことを思い出した。
「お!まさかこの美術部から美大生がでるとは思わなかったなぁ。」
「アキいつもサボってたのに。」
「かと思いきや凄い集中力で急に彫り始めるんだよね。」
みんな好き放題言いやがって。でもこの雰囲気が懐かしい。
「今も彫ってんの?」
「うん、彫刻続けてるよ。」
自分が話題の中心にいることがなんだか恥ずかしくて、目を逸らす。
「部長は今なにしてるの?」
誰かの言葉で話題が逸れる。
「私?料理の専門学校通ってるよ。二年制の学校だから、春から社会人なのですー。学生でいたい!」
同級生が春から社会人という事実に驚く。みんな顔付きだけじゃなく、大人になっていくのだと突きつけられたような気がした。

美術部の仲間と別れた後、隆とファミレスに入った。
親友とも呼べるこの男とは中学を卒業した後もたまに二人で会っていた。
「みんな元気そうでよかったな。」
「だね。変わってなくて安心した。」
だらだらとした雰囲気で、隆のこと、僕のことをそれぞれ話していく。
隆は所謂「陽キャ」と呼ばれるような明るく、人見知りしない性格をしている。
地味と言われがちな美術部において始めは浮いていたが、持ち前の明るさですぐに馴染んでいった。
サッカー部とかの方が似合いそうなのに。一度隆に言ったことがあるが、「俺は絵が好きなの」と一蹴されてしまった。
そんな隆はクラスメイト達の事情に詳しく、会えなかったクラスメイトの今を教えてくれた。
相沢はカナダに留学してるとか。川端はあんな厳つい顔してるのに美容師を目指している、客に泣かれるんじゃねぇの、とか。
隆の話に相槌を打ちながら、中学時代のことを思い出していた。
「そうそう、くるみちゃんさ」
隆の口から出た名前にドキっとしてしまう。
「な、なに。」
少し動揺したのを隆に見つかり、ニヤニヤされる。
「なに。アキ、まだくるみちゃんのこと好きなの?」
「な訳ないだろ。もう5年も前だぞ。」
「でも彼女のインスタのアカウントが見れるなら見たいだろ?」
「それは見たい。」
こうして隆に上手く乗せられ、スマホを手に取る。教えてもらった通りにアカウント名を打ち込み、検索。
くるみちゃんのアカウントはすぐに出てきた。
一番最初に目についた写真をタップする。
友達と出掛けたらしく、ふたりで並んで笑顔の自撮りを見つめる。
やはりあの大人っぽい顔は、メイクや自分に似合う服を覚えた今のくるみちゃんにピッタリだった。
あの頃はキツく見えたけれど、今はとても美人になっている。
「綺麗だな。」
自然と言葉がでた。
ニヤニヤ顔の隆にからかわれているのは分かっているが、少しスマホに集中させてもらう。
成人式の前撮りの写真もあった。紺色のシックな振袖がよく似合っていた。
直接見たかったなぁと思いながら画面をスクロールしていく。
一つとても目を引く写真があった。
親戚の結婚式に出席したのか、ウエディングドレスを着た女性とのツーショット。
全身が写るように撮られたその写真は幸せなオーラに包み込まれていた。
僕が最も気を取られたのはくるみちゃんの着ているワンピースだった。
ビロードの赤いワンピース。
中学時代にくるみちゃんが使っていたあのポーチを思い出す。
あの頃ちぐはぐに感じられた赤いビロードは、今のくるみちゃんにこんなにも似合う。
磁石のS極とN極がくっつくみたいに、とてもしっくりくる。
僕がなんとなく過ごした5年間は女の子を女性にするぐらい長いものだったのかと実感した。
「僕の5年間ってなんだったんだろな。」
ついネガティブな言葉が出てしまう。
隆がなんだ急にという顔をしたが、すぐに僕の手を指さす。
「あんなに細かった腕にこれだけ筋肉が付くぐらいには、アキも頑張ってきたんじゃん。」
「そりゃずっと彫っていたら筋肉も付くよ。」
「それに身長も伸びた。俺の方が高かったのに、いつの間にか抜かしやがって。」
「それ僕のせい?」
拗ねたように隆に聞くと気持ち悪いと大げさに身震いされて、自然と笑っていた。
あんな真正面から励まされたら、泣いてしまいそうだった。


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