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人を動かすのは、言葉だ。

「海外にでもいったら?」


社会人2年目も半分を過ぎた頃。

私は当時勤めていた職場を辞める予定になっていた。自分の経験値をあげるために、新しい職場に転職が決まっている。
その転職まで、丸2ヵ月の空白期間があった。無職の期間。
さあて、その2ヵ月で何をしよう。

本を読むか?映画を見るか?友達に会うか?短期のバイトでもしようかな~。

2ヵ月もあれば、たくさんの本を読めるし映画も何十本と見れる。

友達にも何度も会える。

短期のバイトをちょこちょこいれたらそれなりにお金も手に入る。

そうやって、仕事のない2ヵ月をどう過ごすか考えていた。



当時、お付き合いしていた13個上の彼氏に「2ヵ月あったらたくさん本を読めるよね。バイトもいいな。」と話したところ、彼はあまり嬉しそうな顔をしなかった。

次に、彼は冒頭の言葉を言った。

「海外にでも行ったら?もったいなくない?」



この言葉を聞いた瞬間、私は彼の言葉の意味をすぐに理解することができなかった。

海外に行く・・・??私が??どうして???

頭が混乱する。海外だなんて、考えてもいなかった。
目の前の彼が無謀なことを言っているように思えて、まともに顔を見られない。


でも、しばらくして・・・と言っても数分くらいだけど、その言葉を何度も反芻していたらなるほど、海外に行くというのはわりかし現実的かもしれないと思うようになった。

だって、私には無職の2ヵ月間があるのだ。日本にいなくても何も困らない。


それから、私の頭はめまぐるしくぐるぐる回った。

ああ、そうだ。私は中学生のころから行きたい国があるんだった。
アイルランド。大好きな”ダレン・シャン”の作者の出身地。
ずっと行ってみたい国だ。

アイルランドの人たちはどういう生活をしているのだろう。
ビールに強いというのは本当なのかな。
妖精とか本当に出てくるんだろうか。
ダレンやクレプスリーが駆けた街並みは本当に存在するんだろうか。

そうだ、アイルランドは、英語だ。

英語なら、中学生と高校生のときの得意科目だった。話すのは苦手だけれど、なんとかなる範囲だろう。

2ヵ月ホームステイとかできないかな。
あ、でも海外に行く前の準備もあるし、帰国後には新しい職場へ行くための準備もあるし、せめて1ヵ月半くらいになるか。
1ヵ月半もホームステイできるかな。
どこかB&Bのようなところを予約するか。

ああ。私、今、すごく楽しい!


頭の中で、アイルランドにいる自分を想像する。
その姿にワクワクする。
夢が、現実になりそうな瞬間が、目の前にある。
心臓が高鳴っている。



私は、アイルランドでホームステイがしたいと思った。

そして複数の留学エージェントを訪問し、アイルランド留学を取り扱っているエージェントを見つける。
「アイルランド留学したいのですが」と問い合わせたメールの返信をくれたスタッフが、アイルランド留学経験者だったのはもう運命としか言いようがない。

アイルランド留学というのは、結構地味だと思う。
イギリスとかオーストラリア、カナダなど、留学先の有名どころはいっぱいあるけれど、アイルランドを選ぶ人は多分、少ない。

だから、向こうのスタッフもアイルランド留学希望者が現れてめちゃくちゃ嬉しかったようだ。(後日会ったときにそう言っていた)


それから、日程、プラン、ホームステイ先、学校・・・全てトントンと決まった。
気づけば成田空港へ向かう電車に乗っていた。

「海外に行けば?」との言葉をもらってから、1ヵ月も経たないくらいの出来事だった。






普段の私は、行動がとても遅い。

お店で食材一つ買うのも、これとこれ、どっちにしようかなと迷う。値段はこちらが安いけど、こっちのほうが品質が良さそうだし・・・

服を選ぶのはもっと時間がかかる。こういう色の服は可愛いけど、袖の形がイマイチだな・・・こっちの色だと合わせる服が難しいし・・・

LINEの返信にしてもそう。こう言ったら相手はどんな反応するかな・・・こう言ってみようかな。でも今度はこう思われちゃうかな・・・

noteを書くのだって遅い。こういう書き方はよくないかな、こう書いてみようか、アイキャッチ画像はどれにしようか・・・・


私の行動の遅さを一言で例えると、「体育の授業で一番最後に着替え終わる人」だ。

きっと、周りにいるでしょう。
あの人いつも着替え終わるの最後だよね、みたいな人。

それが私。

自分でもよくわかんないけれど、なぜかいつも一番最後になってた。
社会人になってからもそうだった。

私は何をするのも遅い。






それが、アイルランドに短期留学すると決めたときは、自分でも信じられないくらいの速さで行動した。

私があんな速さで動けるなんて、私が一番びっくりした。

まさに私にエンジンがかかったようだった。

彼の言葉が、私を動かしてくれた。



そうやって、私はいつも誰かの言葉に支えられて生きている。

中学生のときに「ちょここはこういう仕事が向いてるんじゃない?」と言ってくれたのは、体育の先生だった。

「きっとこういうの好きだと思うよ」とアニメを教えてくれたのは大学生のときの元彼だった。

私、自分が好きなもの、全部人に教えてもらってる。

私は世間知らずで視野が狭いから、自分で何か新しいことを見つけるのが苦手だ。
だから、いつも人の影響を受けて何かを好きになる。

昔はそんな自分が嫌だったけど、最近はそれでもいいじゃんって思う。それが私。

どこに私の心が反応するかなぁって、人との会話も楽しくなる。





アイルランドに行って、私は人生が変わった。
アイルランドに行かなければ、夫とも出会わなかったし、可愛い2人の子に恵まれることもなかった。

あのとき「海外に行けば」と言ってくれた彼とはお別れしてしまったけど、彼のおかげで私の今がある。

二人目を産んだ今、毎日ドタバタとせわしない。
でも、楽しい。

今この生活ができているのは、私を動かしてくれた、ある言葉があったから。
アイルランドに行きたいという私の奥底に眠っていた気持ちを目覚めさせてくれた、彼の言葉。

人を動かすのは人の言葉なんだなぁと実感した瞬間。



いつだって人の言葉が、誰かのエンジンをまわす鍵になるんだ。






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