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ポックという名のウサギ

家庭教師センターからの派遣先はクリーニング屋さんだったが
途中からスナックを始めることになり、「お母さん」は「ママ」になった。
店の2階で中学生の娘の勉強が終わると
スナックに呼ばれて、カウンターでメロンをごちそうになる。

店ではきれいな外国人の女性が何名か働いていた。
お父さんは建築関係の仕事をしているらしく
男性はそっちで働いていた。
ある日、ママから「晩ご飯を食べていきなさいよ」と誘われた。
スナックの後ろの薄暗い和室に案内され
10名ぐらいの外国人と輪になってハンバーグを食べた。
頑張れば英語で話しかけることもできたけれど、微妙な空気が漂っていて、静かに食べた。

スナックと駅の間には長いトンネルがあったので
夜遅くに歩いて帰らせるわけにはいかないと
毎回タクシーを呼んでくれた。

タクシーに乗ると運ちゃんがバックミラーで私を見ながら
「今日のお仕事、終わりですか?」
と聞くので
「いえいえ、家庭教師ですよ」
と言うと
ポカンとした顔になり
「またまた~」
と笑われるのが常だった。

スナックの前で、ママと強面のおじさんにお見送りされているのだから
勘違いするのも無理はない。

ある時
「先生にプレゼントがある」
とママが言い、大きなピンクのウサギのぬいぐるみをくれた。
パチンコの景品でもらったそうだ。
見たことのないキャラクターで、胸には「POCC(ポック)」と刺繍してあった。
お礼を言って、抱きかかえてタクシーで帰ったが、私はぬいぐるみを飾る趣味がなかったので、正直困った。
遊びに来た友達の男の子が「わぁ、すごく可愛い」と、おせじではなく言ったので、ポックはその子の元に旅立った。

その後、私は大学生活が忙しくなって家庭教師のバイトを辞めたから、ママたちのその先は知らない。


#キナリ杯
#ぬいぐるみ

#思い出

#家庭教師




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