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言葉であそぼ

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「言葉であそぼ」では、五十音を使って物語を描いていきます。1週間に1回の予定
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記事一覧

郵便ポストから始まった(創作)

郵便ポストから始まった(創作)

日曜日の夕方、僕は湯河原に向かっていた。突然温泉に浸かりたくなったのだ。上司に、月曜に有給を取る旨をメールして、ゆりかもめから乗り換えて湯けむり号に乗った。

大学の幼児教育サークル時代から付き合っていた彼女から、突然「別れたい」と連絡がきたのが土曜日。郵便ポストに入っていた手紙には1行だけしか書いていなく、僕は激しく動揺した。

サークルで使う指人形作りに苦戦していた僕の横に座って、黙って手伝っ

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ヤマボウシの君へ

ヤマボウシの君へ

君を初めて意識したのは、高校2年のときだった。

昼に購買のパンを八つも食べた後の、午後の授業。しかも古文。どんな状態か想像できるだろう?
そのうえ、まだ日に焼ける季節ではないためカーテンは開いていて、日差しはやけに柔らか。

ウトウトが本格的な眠りになりそうだったそのとき、耳に響いてきた声に僕は目を開いた。

「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、

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めっちゃメスシリンダー(創作)

めっちゃメスシリンダー(創作)

俺はメスシリンダー。

名前とかニックネームとか、そうゆうことじゃなくて、本物のメスシリンダー。
そう。あの円筒形の容器。極めて明瞭。

人間に生まれたのに、メスシリンダーなんて命名されたら嫌だよね。俺なら嫌だな。

俺たちメスシリンダーには、どうゆうわけだかまれに感情や感覚が芽生える個体が生まれる。俺もその、めったにない内の一つってわけだ。
人間に伝えるには“魂が宿る”って言葉がしっくりくるだろ

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むささびの夢(創作)

むささびの夢(創作)

気がついたらボクは木の上にいた。

月が森を照らして、夜はむらさき色に染まっている。
さっきママとパパに「おやすみなさい」と言ってベッドに入ったはずなのに、なんで木の上にいるんだろう。

向かい合った木から「コタロウ、風が変わったらおいで」と声が聞こえる。
声の主を探すと、そこにはムササビがいた。

ム、ムササビ?

驚いてほっぺたをつねってみると痛くない。
ああ、これは夢なんだなと思って、つねっ

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密だけど開店(創作)

密だけど開店(創作)

カランと音が鳴った気がして、ミツコはドアのほうを見やったが、空耳だったらしい。

あの感染症のせいで、しばらく休業していたミツコのスナックだったが、今日からまた営業することにしたのだ。

カウンター8席の小さなスナックでは、席を開けて座っても、ドアを開きっぱなしにしても三密の状態は避けられない。うちの店で感染させるわけにはいかないと、ミツコは他の店が次々と営業を再開しても慎重になっていた。

見目

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マトリックス(創作)

マトリックス(創作)

「マトリックスを観たのが最初のデートだったか?」と貴方が聞いてきた。

「いいえ。レイダースよ」と答えた私をまじまじと観た後、「そうか。2回目はキャノンボール2だったか?」と言う。

「そう。2回目はキャノンボール2」と答えてクスクスと笑うと、「ひどかったよな」と貴方も笑った。

*******

年齢も離れていて、性格も真逆。マイルドな貴方と負けん気が強い私の共通点といえば、一人っ子でマイペース

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ヘリコプターロマンス(創作)

ヘリコプターロマンス(創作)

※前回のシェアハウス物語はこちら

丘の途中のシェアハウスに住む四人は、今日もそれぞれが平和に暮らしている。

このシェアハウスの持ち主である花子さんは、お昼に作ったペペロンチーノが素晴らしく美味しく出来て、みんながペロリとたいらげてくれたことを喜びながら洗い物をしている。
風子さんは庭で平家物語をそらんじながら太極拳のような運動をしていて、月子さんは部屋で仕事関係のメールに返信しているようだ。

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富士のある風景(創作)

富士のある風景(創作)

丘の途中にある一軒家をご存じだろうか?

この家の持ち主である花子さんは、ふんわりとした雰囲気でいつもニコニコしている。
身体がフリーでいられるふわっとした服が好きで、髪は栗色のふわふわのロングヘアー。庭のフリージアに水をやっている姿はファンタジーの世界の一コマのようだ。

少し前に夫が亡くなったが、このままこの家に住み続けたかった花子さんは、いろいろ考え、あちこちに相談した。そしてこの家をシ

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葉蔭のハンモック(創作)

葉蔭のハンモック(創作)

春に生まれたから春子。
そんな安直な付け方でも、春子本人はこの名前を気に入っていた。

長い冬があけて花が次々と咲き始めるこの季節が春子は好きで、春のような人になりたいと思っているのだった。

母方の祖母が春子の名付け親で、春子たち一家は祖母の家の離れに住んでいる。

「春子が生まれた日は、庭の白木蓮が晴れた青空によく映えてね、それはそれは美しい光景だったのよ。甘い香りを春風が運んでくれて、天が春

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熨斗紙に愛をのせて(創作)

熨斗紙に愛をのせて(創作)

今日も私の勤める百貨店は大混雑だった。

屋上では夏休みのお子さん向けのイベントをやってるし、催し物場は不動の人気ナンバーワンの北海道展だし、化粧品ブランドがノベルティを配ってるし、
これで集客が上り調子でなかったら心配になるというものだ。

私は、そんなバタバタしている売り場をチラリとのぞき見ながらのんびりしていた。

先月、手伝いとして駆り出されていたお中元センターで、みんなと一緒に繁忙期を乗

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年輪の子守唄(創作)

年輪の子守唄(創作)

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には春がくる

年輪かさねた森の木が
葉っぱでベッドをこしらえて
粘土を練るよに 念入りに
ぼうやを揺らすよ ねんころろ

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には夏がくる

ネイビーブルーの海原は
熱気を涼しい風に変え
寝苦しくなく眠るよう
ぼうやをあおぐよ ねんころろ

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には秋がくる

根っこにかくれた虫たちが
羽の音色を

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ぬんちゃくを隠せ(創作)

ぬんちゃくを隠せ(創作)

会社から帰ってきたパパが僕に「夕飯の後でちょっと時間をくれないか。話があるんだ」と言った。

こんなことを言われたのは初めてで、何だろうととてもドキドキした。もしかすると、パパとママの会話を盗み聞きしていたのがバレたのかもしれない。火災保険の話かなんかみたいで、聞いたからって怒られることでも無さそうだったけど。
気になりすぎて、夕飯に出た苦手な糠漬けをうっかり口に入れてしまったほどだ。げほっ

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忍者養成講座初級第二期開講(創作)

忍者養成講座初級第二期開講(創作)

日本古来の忍術から学ぶ現代の生き方
『忍者養成講座』

昨年末に開講し大好評を得た忍者養成講座初級。多くの支持をいただき第二期の開講が決定しました。

全6回のオンライン講座で、初級では「忍者の心・技・体」の基本的な部分を体得。無料説明会は7月22日(土) 、8月2日(水) 20:00 から開催します。

この講座を受けることで期待できること
⚫︎忍耐力を手に入れられる
⚫︎苦手なことを回避できる

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ナインボールは突然に(創作)

ナインボールは突然に(創作)

奈緒「縄」
賢也「綿」
笑子「タコ」
聖司「粉」
奈緒「なまこ」
賢也「ココア」
笑子「アイス」
聖司「すずな」

奈緒「えーっ、また“な”?!
   んーーーっとね、七不思議」

笑子「七不思議って言えば、私たちの学校にもあったよね。第二校舎の階段とか」
奈緒「そうそう。昇るときと降りるときの段数が違うってやつでしょ。あと暗くなってから中庭のナナカマドに触ると泣き声が聞こえるっていうのもあったよ

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