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「スパイダーマン:スパイダーバース」(2018年)

2018年時点でこれがアニメの最前線だったのだろう。
なぜ過去形かというと本作の続編「アクロス・ザ・スパイダーバース」が完成したからだ。

ただ、続編は未見なので、今回は「スパイダーバース」の話をする。
テーマは「誰でもスパイダーマン=ヒーローになれる」という明確なもの。このメッセージは興味深い。ヒーローとは人気者のことだろうか。それとも、誰にも知られずに世界を救う人でもいいのだろうか。本作の中では定義はされない。ただ、昨今の世の中を見ていると、ヒーローは善意の人であり、人気者でもあるのだと思う。

主人公のマイルス・モラレスは大好きな叔父と一緒に路地の奥の壁にスプレーで絵を描いたりしていた。そんな彼が人気者になるのだから、「KAWS」のようなストリート・アーティストの姿が重なる。音楽もヒップホップだし、全体的にストリート・カルチャーを意識した作りになっている。アメリカでは十代の少年たちはみんなストリート・カルチャーを通過するのだろうか。
個人的には、先述の「KAWS」や「バンクシー」「インベーダー」など、ストリート出身のアーティストが増えていることから推測するに、本作はモダンアートを意識しているのではないかと思う。

最近の映画はマルチバースだらけだ。スパイダーマンも並行世界でいろいろな物語がある。もう飽和状態だったのだと思う。実写版のスパイダーマンも何度もリブートされているし、ほとんどやることがない。ただし、だからこそ、スパイダーマンをゼロから考え直したのではないだろうか。
もともとはアメコミで、そのあたりに住んでいる少年がスーパーパワーを手にいれる。それをもう一度かっこよく表現してみたらどうなるだろう、というのが本作なのだと思う。

制作陣は根本的な、大切なことを見つけるための考察を深める中で、人は誰でもヒーローになれる、というメッセージを見つけたのではないか。そして、ヒーローになるのは、他のスパイダーマンの真似をするのではなく、自分だけのスパイダーマンになることだし、町の人気者になるのもいいが、やはり家族が一番大切だ、というごくごく当たり前のところに立ち返った。

最前線のアニメーション表現をするとき、ストーリーはシンプルでよいのかもしれない。もしくは、シンプルなストーリーのほうが多くの人に響くのだろうか。
とにかく、本作はアニメーションの現在というものを見せてくれる素晴らしい作品だった。

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