『歌壇』2023年3月号
①中西亮太「インタビュー齋藤宣彦さんにきく」
史の連載を終えた中西が、ご子息の齋藤宣彦さんにインタビュー。やはり家族の語る話は強い。中西の「済南事件が史のものの考え方、見方に強い影響を与えた」という推測は、今後史に関するものを読むために覚えておきたい。
② 中西亮太〈ご家族から見てどんな人ですか、瀏さんは。〉
齋藤宣彦〈古武士の風貌です。〉後でこうも言っている。〈軍人のくせに、そういった歌だとか絵だとかに、言ってみれば「軟らかい」というか。〉
中西〈ナンパな、ということですね。〉
史の父の瀏に対するエピソードがかなり面白い。中西自身も〈今回の私の文章の裏のテーマは「齋藤瀏」だったのです。〉と語っているので、瀏の人物像に魅力を感じていたようだ。宣彦氏の話に、戦前の文人たちの交流の雰囲気が感じられて興味深い。
その他、初めて知ったことなど
齋藤宣彦〈(瀏は)中野学校にも行ってたことがありますから(…)〉
中西亮太〈陸軍中野学校ですか。〉
齋藤〈ちょっと陸軍大学校の教員をやっていたことがありますし、(…)〉
これは初耳だ。 他にも
齋藤〈史は熊本時代、西洋人の女性にお料理を習っていたらしいので(…)〉
中西〈西洋人に料理をならったというのは初耳です。〉
ハイカラな家庭だったんだな。
中西の〈熊本時代がのちのちの(史の)歌人としての基礎を作ったんだろう(…)〉という発言が彼の連載の基調と思った。
この対談は終わり方がチャーミングだ。ここで切ったセンスすごい。ぜひ読んでほしい。それからこの対談で中西が取り上げていた梯久美子の『この父ありて 娘たちの歳月』(文藝春秋社)も読んでみたいと思った。
④谷岡亜紀「鑑賞佐佐木幸綱」
舟を曳く綱引きかつぎ岸を行く生涯があり見つめやまざりき 佐佐木幸綱 〈連作の最後に置かれたこの歌も含めて、川と共に生きてきた、そしてこれからも変わらず生きてゆく、人間の長い長い営為が、壮大かつ神話的な詩座をもって歌われる。川も人間も、誰かに手渡すために何かを運び、遥かな道のりを「行く」存在である。〉
河川に捧げる佐佐木の連作を読んだ評の最後の一首。もちろん佐佐木の歌に導かれてのことだが、この谷岡の評には感動した。特に最後の「川も…」の部分にシビれる。
⑤吉川宏志「かつて源氏物語が嫌いだった私に」
〈中国の知識を学び、日本の実情に合わせてうまく活用するのが大切なのだ、という考え方が表れています。近代以降は、欧米の知識を日本的に応用しようとする流れが出てきますね。そんな日本人の思考の型(パターン)が『源氏物語』に書かれているのはとてもおもしろい。〉
明治以降のいわゆる和魂洋才は、平安時代の中国文化の摂取にそのルーツを辿れるということだ。元々そういう気質なんだな。源氏物語にはっきり書かれているとは知らなかったが。
⑥吉川宏志「源氏物語」
〈光源氏や紫上が主人公・女主人公に見えますが、じつは六条御息所、あるいは六条という場所(トポス)が、物語の運命を動かしているのではないか。〉
円地文子の『源氏物語私見』から得た視点をこう説明している。非常に興味深い説だ。
2023.3.6.~7. Twitterより編集再掲