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『歌壇』2021年6月号(2)

⑤「短歌における話し言葉の効果」とても気になる特集。現在の文語口語問題はその用語が何を指すかが明確にならないまま使われているから、という面がある。文語口語には古語・現代語という意味もあり、文章語・話し言葉という意味もある。話し言葉には「会話表現」という意味もある。

⑥大井学〈歌の中の「会話」の言葉も、実はドラマの場面と同様な伏線を想定して読む必要性を感じるだろう。(…)その言葉が意味するものだけではなく、裏腹の感情やアンビバレントな心理が込められたものとして解釈する文脈が生まれてくる。〉大井は話し言葉を「会話」と捉えている。そして会話表現を用いた歌の魅力は読者が、生な「会話」に巻き込まれる楽しさ、とまとめている。読者も参加してドラマをつくりあげていくのだ、と。とても納得できる論。

⑦池田裕美子〈「話し言葉」は、「書き言葉(文語)」に対する語に用いられる音声言語。それを基準とした文体を「口語」あるいは広く「現代語」と呼んできた。(…)口語短歌はすでに当たり前で、さらにくだけた話し言葉化が一部では進んでいる。〉池田の解釈に「話し言葉」が二つある。まず「口語」と言い、次にその中でのさらにくだけた「話し言葉化」と言う。後者はおそらく大井の言う「会話表現」を指しているのだろう。この辺りは混用している人が多いように思う。整理が必要な観念だろう。

⑧後藤由紀恵〈話し言葉かどうかを判別するのがとても難しかった。口語、であればすぐに選歌出来ても、話し言葉となると、本当にこれがそうなのか(…)選歌にとても迷いが出た。〉この書き手はとても誠実だなあと思う。分からないとか迷うとか言うのはとても勇気がいることだ。「口語」と「話し言葉」の線引きがはっきりしてないからだが。「口語は現代語」というのも歴史的に時間幅のある文章を書く時は、誤解を生みがちだ。

⑨ユキノ進〈短歌の中の話し言葉もまた、書き言葉(エリクチュール)の一種に過ぎないのだ。〉厳密な意味での「話し言葉としての口語」は音声の中にしか無い。書いた途端「書き言葉」になる。短歌の中の話し言葉は、もちろん発話をそのまま文字化したものではなく、作為的なものだが。

恨みは恨みを呼ぶと知りつつ恨みたり晴れたる空はマスクをつけず 田口綾子 上句に惹かれる。分かっていても恨んでしまう心。分かって止められるような感情ではないのだ。下句は空がマスクを着けていないということだろうか。ひたすらに晴れ上がった空と対照的な、人を恨む心。

栴檀はむらさき淡く咲き盛り広島はヒロシマをすこしく忘れる 馬場あき子:沖ななも〈栴檀はインドでは、邪気を払うとして敬われ(…)その邪気を払うイメージで栴檀を眺め、いっとき悲惨な歴史に祈りをこめたのだろうか。〉下句の言葉の重なり、さすがと思う。上句の描写ありきだが。

2021.7.7.~8.Twitterより編集再掲