『現代短歌』2019年9月号

①花山多佳子「昭和十年の文明と佐太郎」。〈…たいていは「在る」こと、「実」こそ写生の系譜において「虚」を先立て、虚に詩を呼び込む〉。この論は実にシャープに佐藤佐太郎の特徴を言い当てている。佐太郎は苦手だがこの論を読んで、ああ、と思い当たること多し。よいガイドになる。

②大辻隆弘「文明と佐太郎の戦後自然詠」。土屋文明と佐藤佐太郎の時間意識を比較する。文明は長いスパンの、佐太郎は刹那的な、時間意識を持ち、それに応じて歌に使われる副詞が違うという指摘である。実際の歌を読む時の、具体的なヒントに溢れている論だ。

③川野芽生「歌壇時評」。小佐野彈『メタリック』に〈多様性〉はない、と述べる。偏見や先入観に囚われない聡明な知性に目をみはった。蒙を啓かれる思い。その知性の冴えとともに全く曖昧さの無い、きっぱりした言い方にも感銘を受けた。

④寺井龍哉「歌論夜話」。紀貫之の知らなかった一面。〈…文化の洗練や高度化が、周縁への蔑視と隣り合わせにある…〉。これはどの分野にも言えることだ。一度高度化を遂げてしまうと、下降線上にあっても自覚できない。ところで今回のタイトル「ボクの詩歌には華がある」、元ネタが分からないのだが…。

2019.10.13.Twitterより編集再掲