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『しんきらり』やまだ紫(ちくま文庫)

しんきらりと鬼は見たりし菜の花の間(あはひ)に蒼き人間の耳 河野裕子

 河野裕子の短歌を通奏低音として響かせながら描かれる漫画。1982年の『しんきらり』と1984年の『続・しんきらり』をまとめたもの。当時の専業主婦として、またパートで働き、最後には創作者として生きる女性の心の葛藤が描かれている。時代的に古びてしまった部分と普遍的な部分の両方が描き留められている。

自己満足でも
しなかったら
子育てなんて
できやしない
遠くで頬づえついて
その場しのぎを言わないでよ

わたしお母さんだからね
その場しのぎでにげられないもの

私が産んじゃったんだもの(P84)

そうか ―
また
わすれものだ

こんなに大きく
育ったけど
わたしのコドモだった

また ー
時には抱いて欲しい
子供なんだ

そうだった(P150)

わたし
自分を

無欲な
 平和な女だと
思っていた

結婚生活に
過大な期待をもたず

ただ平和な日々が
おくれたらと
ささやかな・・・・・・

夫婦が
長く平和に―
という望みは

「ささやか」な望みなんかじゃ
なかった

こんなに激しい夢って
なかったんだ

夢からさめて どうしましょうね わたしたち ―(P176~178)

ちくま文庫 1988.3. 定価490円(本体476円)