河野裕子『紅』(4)
誘(をび)かれてなほ摘みゆきしれんげ田のとほくれなゐの暗きかがやき たくさん摘んだのに、花に誘われるようになおも摘んでいったれんげ田。遠くまで広がっていた暗い紅色の輝き。記憶の中の風景だ。田の肥料にするため、かつては大規模に植えられていたれんげ。
水のやうにれんげ咲きゐしをちこちに光れる田みづと耀(かがよ)ひあひて 田植え前の田んぼだが、あちこちに田水があっって光っていた。その田水と耀きを交わすようにれんげが咲いていた。れんげ自体が水のように広がり咲いていたのだ。
過ぎゆける日日(ひび)の愁ひにひかりあり沁みてれんげの花のいろあり 過ぎて行く毎日には愁いがあり、そこに光りが差すと思えることもある。光りも心のあり方だが、心に沁みるようにれんげの花の色がある。「ーあり」「ーあり」の切れる文体だが、意味は続いている。
2023.7.18. Twitterより編集再掲