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『西瓜』第10号2023.autumn

歌詠めば日々はかなしも生まれゆく愚にもつかざる生活の歌 門脇篤史 「愚にもつかざる」は生活にかかるのか、歌にかかるのか。どちらにしても、やり場の無い「かなしも」の感慨に至る。生まれた歌を読み直し、軽く脱力するのは、誰にでもあることなのだろうか。

暗渠になる寸前のくらききらめきよ臨終のひとのまなこにも似て 楠誓英 川がここから暗渠になるというところで光を受けてきらめいている。陰になる部分も見えるため、普通の川の輝き方ではない。それを下句のように喩えた。主体の記憶にある眼なのかもしれない。

正しさの足りない日々に正しさしか要らないなどとは言えず桃食む 虫武一俊 自分と他人の基準は違うから、正しさが足りないと思っても言えない。本当はそれのみを求めているのに。熟れた桃の、輪郭のゆるさや、デロッとした感触が歌によく合う。正しさって何だろう?

シャンプーを借りるといっても返すわけではない裏切るならはじめから 鈴木晴香 シャンプーを借りるという言葉の綾に、言葉と微妙にずれた相手の行動が重なる。借りる、と言わずにもらう、取る、奪うと最初から言ってくれればよかった。もう元には戻らないのだから。

2023.11.19.~20. Twitterより編集再掲


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