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『短歌研究』2020年1月号

書かれたる言葉といへど響きけむかつて少年の素読する声 島田幸典 詞書に「致道館」 とても端正な一連だった。名詞、特に固有名詞の使い方、風景描写、時間の描き方、全てが相俟って品の良さを醸し出す。この一首では素読という言葉がいい。

生きることの目的は生き延びること床からひろつた服なども着て 山木礼子 旅行中と子育て中は洗濯するはずの服ももう一回着るよね。箴言みたいな上句をリアリティのある下句が引き立てている。「床からひろつた」が切実。

洗脳はされるのよどの洗脳をされたかなのよ砂利を踏む音 平岡直子 怖いわ、この歌。特に結句。誰かが洗脳のために近づいてきたみたい。句割れを使いきっちり三十一音。読んでるとすごく陶酔感を感じる韻律。

④「塚本邦雄賞」水原紫苑〈他者としての短歌形式を塚本に認識させた契機は、言うまでもなく敗戦です。〉塚本にとっての敗戦というのは大切な論点と思う。

⑤「塚本邦雄賞」穂村弘〈塚本的な短歌観を通して、初心者の私は散文にはない詩歌の謎を怖れながらも、少しずつ楽しめるようになっていった。〉誰かの手引きを参照しながら少しずつ短歌が読めるようになっていくという経験は、結構多くの人が共有するのではないか。塚本に限らず。

⑥「塚本邦雄賞」北村薫〈その夏、河野裕子さんは「短歌現代」に、こう書きました。《短歌は、見てくれほどたやすい詩型ではない。》題は「素人選者は困る」。〉河野裕子の声が聞こえてきそうな文。これを選考委員就任にあたって引用してくる北村薫の覚悟のほどが凄い。

⑦「茂吉短歌・ニ十首をたっぷり読む」
夕食を楽しみて食ふ音きこゆわが沿ひてゆく壁のなかにて 斎藤茂吉 これは知らなかった歌。そして一読素直にいいと思えた歌。

⑧「茂吉短歌・二十首」こゑひくき帰還兵士のものがたり焚火を継がむまへにをはりぬ/沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ 斉藤茂吉 これらは言わずと知れた名歌。私もそう思う。特に「沈黙の」の歌は茂吉短歌の中で一番好き。

⑨「茂吉短歌・二十首」日本国の児童諸君はおしなべて辛抱づよくあれとしぞおもふ/目のまへの売犬の小さきものどもよ生長ののちは賢くなれよ 斎藤茂吉 この辺になってくると若干微妙になってくる。

⑩松村由利子「ジャーナリスト与謝野晶子」〈晶子は用心深く、「灰色の日」三十首から内務省に目をつけられそうな歌を取り除いた。〉この連載、最高に面白い。初出と歌集の歌の比較、その時代の政治や思想への考察。考察が詳細で具体的なので、明治時代にタイムスリップした気分。

2020.1.14.~17.Twitterより編集再掲