『ねむらない樹』vol.11 2024 winter
①笑ひつつ笑つてゐない人々は釘のあたまのやうな目をして 岡本恵 目が笑っていないということだろう。そしてその目は「釘のあたま」のようだというのだ。人の心を持たないような、不気味な冷たさを感じる比喩が、一首に合っている。
②気分に合う音楽を再生したら気分が音楽に寄っていく 齋藤真琴 4/7/5/8/7か6/7/5/7/7か6/5/7/9/5…などと考えてみる。上句と下句も捩じれている。気分に音楽を合わせているのに、その音楽に気分が寄っていくのだから。でもこういう心の動きってあるとも思う。
③感情を省いてやっとちょうどいい炭酸水の泡の総数 toron* 炭酸水の数えきれない泡の数が自分の中の思考の数と同じと思う主体。その数よりはるかに多くの感情が主体の中にあり、それを省けば泡の数と同じになる。泡のぷつぷつ感が実は感情を想起させる。
④成功した後輩テレビに映っている こちら側にも雪が降ります 竹中優子 成功した後輩に対する言葉にならない感情。嫉妬のようなそうでもないような。後輩に向って心の中で言ってみる。こっちにも雪が降る、そちらと同様に。この作者特有の心理描写に惹かれる。
2024.6.11. Twitterより編集再掲