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河野裕子『はやりを』 4

年うへの女人の傍へに目瞑れり体温のあるこゑと思ひて 河野のキーワードの一つは間違いなく「こゑ」。『はやりを』から目立ち始める。この歌では、体温のあるという形容詞が抜群だ。内容ではなく、声そのものを聞いている。目を瞑って声に身体を委ねているのだ。

路地の奥の夕映だまりに影ふみてかつてはわれでありし子遊ぶ 子供を育てている時、親はもう一度人生を生き直すような感覚を持つ。子はかつてのわれなのだ。その感覚を確かなものとするために上句の情景はある。まさに今自分が影踏みしていると感じているのだ。

雨けぶるゆふべの枇杷園に従(つ)きて来つこころとこころのあはひの言葉 「従きて」の語から夫について来たと取った。なぜ雨の夕方の枇杷園に来たのか分からないが、叙情的な印象の場だ。二人の心と心の間に言葉が交わされている。おそらく声に出さない言葉が。

2023.4.6. Twitterより編集再掲

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