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『塔』2023年8月号(1)

①浅野大輝「短歌時評」「体験を深める/人生で戦わない」
〈作品にあらわれてくるのは作者にまつわる事実そのものではないが、少なからず作者の体験が反映された声である、ということを思う。(…)なぜ作品をつくるのかといえば、それをつくることを通じて体験を問い直し深められる点に意義があるからでもある。〉
 新人賞について言及している文だが、それに限らず、短歌の創作に関してかなり深いところに届いていると思った。
 書き手は新人賞について書くことには逡巡があるようだが…。私は色々考えさせられた。 全文こちらで読めます。ぜひお読み下さい。  
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②吉川宏志「青蟬通信」「自分には見えない世界」
〈別の世界を感知しているかのような一流の芸術家は、確かに存在する。(…)自分には見えないものが見える他者を信じるほうが、芸術の場合は、深いところに導かれる気がする。〉
 理屈ではないところでそのように感じることはある。自分には見えない世界を見る他者と繋がるためには、自分の感じ方も研いでおかなければならないように思う。 「青蟬通信」はここで読めます。ぜひ全文お読み下さい。
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③魚谷真梨子「子育ての窓」〈眠たい頭で考えた、いいかげんな話なのに、こんなに喜ぶのかと驚いた。〉
 寝かしつけのお話。私も自作のお話を息子に聞かせていた。あまりにも話に入り込むので驚いた記憶がある。「親が作った話」というのがある程度、味なのかなあと懐かしい。

断らうと何度も思ひしその役を戴冠のごとく吾は受けたり 永山凌平 断ろうと何度も思った大変そうな役職を、結局引き受けてしまった。それも「戴冠のごとく」。巧い比喩、一生に一回だけ使うタイプだ。もう逃げられない、気が重い自分を客観視して、軽いユーモアもある。

人生は上手くいくとかいかんとかそういうくくりなのか、三月 川上まなみ 本当にね。思わず共感した。上手くいってないからこそ言ってしまう。そんなくくりではないはずなのだが、じゃあ、どんなくくりと言われると。人が異動する月である三月に、つい頭に浮かぶことだ。

問いはヒヤシンスの茎のように伸び謎めくことはかぐわしいこと 小松岬 初句二句の句跨りが強い。上句も下句も比喩に思える。直喩であるはずのヒヤシンスの茎が、実景のように目に浮かんで来る。この問いは謎めいたまま、決して解かれることはないのだと思わせる。

純白のくちなし匂う玄関に自分の沼よりわれを引き上ぐ 矢澤麻子 玄関に梔子の花を飾っているのだろう。外で気を張っていたが、家にも家族がいる。暗い気持ちに浸っていることはできない。自分で自分を沼から引き上げる。傷みやすい梔子の、今日の純白さを支えにして。

2023.8.26.~29. Twitterより編集再掲

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