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『歌壇』2024年4月号

烏賊の身に手首まで入れ冷えわたる暗黒宇宙をつかみ出したり 小島ゆかり 烏賊のワタを抜いている。今は烏賊を捌くことも減って、切り分けられた身を買う人が多い気がする。烏賊は流水にさらして調理するので、常にイメージとして冷えている。「暗黒宇宙」が壮大。
 寒烏賊の腹をさぐりてぬめぬめと光れる闇をつかみ出だしぬ 河野裕子『ひるがほ』 この歌を思い出す人も多いだろう。どちらの歌も烏賊の胴の中に、その身体より大きい物が入っていると感じているのだ。

もんしろともんしろもつれあふそらのあかるさこはくなるはるのひる 小島ゆかり 平仮名だけで、その効果が出ている。「も」音から「ラ」行音の響き合いへと音が変化し、最後「はる」「ひる」とよく似た音の重なりで終わる。柔らかく作ってあるが、確かに怖くなる。

十五歳(じふご)まで日本人とふ張さんの歌読めば祖父の詠めるがごとし 香川ヒサ 台湾の知人の詠む短歌。歴史に政治に翻弄されながらも、人は心を表す術を求めるのだろう。かの国の人の心に自らの祖父を重ねて読んでいる主体。私たちが歴史の中にいることを実感する。

④吉川宏志「かつて『源氏物語』が嫌いだった私に 若菜上」
〈源氏は、心の中のどこかで、紫上の〈個〉を認めず、自分がコントロールできる存在として見ていたように思われます。〉
 こういう「コントロール」とかの現代語で言われると、千年前の物語が一気に今のものとして実感される。物語を「物語」として読むか、自分ゴトとして読むかは注釈にも左右されると思った。今回は紫上の気持ちがじかに伝わって来て、読むのが辛いほどだった。

2024.4.17.~18. Twitterより編集再掲

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